第80話 ギーガーの古迷宮
草原を見下ろす小高い丘の上に、陣が築かれている。軽バンを降りて、陣の中央に向かう。午後の日差しと、からっとした風が心地よく吹いている。
装備は、フル装備だ。完全白衣、無重力シューズ、猫耳ニットキャップ、矛盾グローブ、それに万能薬二本。末端ゴーグルは、ホイットの分を含め二つレンタルした。かなりの臨時出費だが、ナーワで銀翼と分かれてから、ひたすら神域の作成に勤しんだので、ケチケチする必要ない。
陣を囲む数十人の冒険者が、遠目で俺とホイットを見ている。陣の中央には、簡素な簡易の机が作られていて、数人の冒険者らしき人物たちが何かを話し合っていた。
「遅れてすみません」
陣の上座の席に立っていたヨハンが、出迎えた。
「よく来てくれた」
ヨハンと握手する。ヨハンの分厚い手の平がしっかりと俺の手を包み込んだ。ナーワでヨハンに説得されてから3日が経っていた。俺は、神域確保の目処が立ったので、ヨハンの誘いに乗って討伐軍に参加することにした。
「みなさん、こちらの二人が、バルサです」
「おおーす」
巨漢の男が、手を差し出した。
「黄金の鉄拳団を率いているチオーニだ」
鉄拳というだけあって、空手家や拳法家のように拳が潰れている。どんな戦い方なのだろう。
「バルサのケンです。こちらがホイット」
「知っているぞ。みんな喉から手が出るほどほしがっていた一匹狼だったホイットを迎え入れた凄腕魔導具使いだそうだな」
「いやあ」
「ケン。こちらが、秘刀探検団の隊長、コロカだ」
小柄な体格で、仮面を着けている。手を差し出すと、さらっと無視された。
「群れるつもりは、ない」
「ケン。気にするな、コロカはいつもこうだ。これがこいつにとっては、親愛の表現の仕方なんだ」
「親愛じゃないと何回言ったら分かる」
「そうだ。気にするな、ケン。私は、黒狼を率いているベローネだ」
手を差し出してきたのは、長い髪の毛を後ろで結んでいる女性だ。彼女の後ろには、巨大な鎌、デスサイズというのだろうか、を持った男性が控えている。男性は腰に剣をぶら下げているから、もしかしたら、デスサイズはベローネの得物なのかもしれない。握った手は、チオーニと同じ感触だった。手の平の全体がマシュマロのように弾力があって柔らかい。
煌びやかな宝石で飾られた鎧を着た男性が、腕組みをして俺を睨んでいた。
「挨拶するために、ここに集まっているわけではないだろう」
「メオーニ。そんなに怒るなよ」
ヨハンが、なだめる。
「彼は、清明戦士団の隊長メオーニだ」
「我が戦士団は、暇じゃないんだ。さっさと作戦を決めて行動に移そう。待っていたって事態は好転しないだろう」
ヨハンが、ヤレヤレという顔を俺に見せて陣の中央に戻っていった。
「主な討伐メンバーは以上になる」
「他に、もう直ぐ。今日中には中小のギルドメンバーがアナトーリア司教達とやって来る。そうすれば、すぐに行動に移そうと思う」
黒狼のベローネが発言した。
「最終的にどれくらいの陣容になる見込みだ」
「だいたい130から150人になる見込みだ。今回最大の目標は、迷宮の入口の封鎖になる。古の迷宮内部で何が起こっているのか分からないが、俺たちが観測した限りでは、白き獣は、迷宮から湧き出てでてきやがる」
「それは、普通のことなのか」
「これまで白き獣がいなかった迷宮から再び白き獣が湧き出てくるという現象が観測されたのは、たぶんここが、はじめてだ」
清明戦士団の隊長メオーニが、苛立ちげに、たずねた。
「それで、作戦はどうする」
「作戦は3段階で行おうと思っている。まずは、迷宮の外を徘徊している白き獣を叩く。次は、迷宮の入口を押さえ、補給路を整備し、前線基地とする。最後は、迷宮入口の封鎖だ」
黄金の鉄拳団チオーニが腕組みを崩さず言った。
「封鎖するといっても、俺たちには、できんぞ」
「それは、アナトーリア司教が指揮をとるって約束になっている」
作戦会議は、一時中断となった。結局アナトリア司教達が来てからでないと、なにも動けないということになったからだ。丘から少し下った斜面に腰を下ろし、古の迷宮の方角を見る。白き獣の姿は、ここからは見えない。銀翼の射手、アッジーが足早にヨハンに近づいてきて何か言った。
「アレッキオ司教たちが到着したそうだ」
陣中ではアレッキオ司教を出迎える対応で活気づいた。俺は何も指示されなかったので、人目に付かないように、話が聞こえる範囲でみんなから離れたところに腰を下ろした。ホイットが隣に座った。
「何を悩んでいるの」
「周りはベテランの冒険者ばかり。俺なんか役立たずだ。この仕事を受けなくても良かったと思うんだが」
「そんなことは、ないんじゃない。ヨハンの説明通り、群れで襲ってくる白き獣たちの連携をくずって、ケンと私にしかできない仕事だと思うけど」
「そうかな」
「まあ、ケンがやりたくなければ断ればいいよ。どうせ、ギルドの仕事は本職じゃないんだから。地図作りでどうせすぐ次の街に行くことになるんでしょう。今、ここにいるのは、本当に偶然だから。断りましょう。私が言ってあげる」
ホイットが腰を上げた。
「ちょっと、待って」
「おおおい、お二人さん」
笑顔のヨハンが近づいてきた。
「これから、懇親会が始まるぜ。顔を出してくれよ。残念ながら酒は出ないがな」
「俺は、司教様に嫌われているから。変な空気になってもあれだろう」
「申し訳ない。明日は、朝早いんだろう。今夜は早く休むよ」
「わかった。じゃあ。明日な。相棒」
ヨハンは、ほんとうに気持ちの良い奴だ。リーダーとして適任な性格を持っている。羨ましいかぎりだ。
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