第78話 再会
冒険者ギルドの受付で、報酬の受け取りのサインをして受付のお兄さんに書類を返す。ホイットは、不満げに腕組みをして入口近くの壁際に立ってこちらを眺めていた。
「これで、盗まれた農産物に関する依頼条件の変更、および依頼は達成されましたが、ほんとうにこれでいいんですか」
「いいんです。依頼主からの要望にもそう書いてありましたよね」
「はい。たしかに」
「ありがとう」
フランカ一族との会談を終えてオルフェーオと合流した。村に送るついでに、会談の内容を伝え、前金として預かった袋を渡した。オルフェーオは、村に帰ってすぐにみんなで会議をひらいた。結果、婆さんの案で仕方ないという結論になったのだった。
数日後、ホイットがカネを持って不意に戻ってきた。ホイットが本気で闇市場を監視していたのに、フランカ達は、盗品をカネに変え、約束通りこちらに代金を渡してきたのだ。袋の中には、紙切れが入っていて、それには「約束は果たした」と書かれていた。差出人の名前は書かれていなかったが、まちがいなくフランカ一味からだ。
完璧な解決じゃないが、今回はこれで勘弁してもおうしかない。つまり、相手の方が俺たちよりも一枚も二枚も上手だったのだ。それからから、ずっとホイットは不機嫌だ。
「さあ、仕事に戻ろう。ホイット」
オントラント村とナーワの間の神域作りに励んでいるが、まだまだ空白の地域が残っていた。末社の有効期限は短い。できれば中社まで設置したいし、うまく行けば、大社も設置できるだろう。そうなれば、ナーワの冒険者ギルドで、依頼を受ける余裕もできる。腕組みしているホイットの腕をとって、ギルドの外に連れ出す。
「ちょっとケン。放して」
「切り替え、切り替え」
「分かったから」
ホイットが微笑む。
「笑っているほうが良いよ」
ホイットの顔が少し赤らんだ。ホイットにだって、敵わない敵がいる。それを知ったことは、俺にとっては大収穫だ。これまでも、ホイットにおんぶに抱っこだったが、それではやはり乗り越えられない壁があるのだ。これまで以上に気を引き締めないといけない。ついつい油断して装備をおろそかにしてしまう。一番の大敵は油断だ。
空を見る。日差しがまぶしい。快晴だ。気持ち良い。
「お、こんなところで会うとは、よほど縁があるな」
聞き覚えのある声だった。銀翼のヨハンが、腰に手を当て胸を張って立っていた。
「ヨハンさん、お元気そうで」
「もちろん元気だ」
「他の皆さんは」
「宿屋で休憩中だ。ケンがこの街にいると知ったらフランは大喜びだな」
「冗談は、よしてくださいよ」
ホイットを横目で見る。不機嫌に逆戻りだ。ヨハンさん、余計なことを言わないで。
「折角こうして再会したんだ。今夜一杯どうだ。相談したいこともあるんだ」
「相談ですか。ホイットどうする」
「ケンのスキにすれば」
「なんだ、お二人さん、喧嘩でもしてんのか」
いや、あんたのせいだから。突然、ホイットが俺の肩をぐっと後ろに引いた。俺の横を男がギルドから転がり出てきた。ホイットが肩を引いてくれなかったら、ぶつかっていたところだ。
転がってきた男は、若者だった。顔にはまだあどけなさを残っていて、産毛のような無精ひげが鼻のしたに伸びている。俺よりもだいぶ年下だ。子供と行ってもよい。その若者の頬が赤く腫れている。続いて、いつか見た司教が取り巻きと共にギルドから出てきた。司教は通りに向かって大音声でしゃべりはじめた。
「ナーワの市民の皆さん。お聞きください。この男は、なんと。冒険者ギルドのメンバーで有りながら、教会の依頼に乗じて、神聖な神のカネを盗みました」
通りを歩いていた人々は立ち止まり、何事かと司教の声に耳を傾けている。早くも数人の野次馬が、駆け寄ってきた。となりに立っているヨハンが小声で耳打ちした。
「行こう。見るもんじゃねえ」
「どういうこと」
ヨハンは、それには答えず、渋面を作った。
「よろしいかな、皆さん。これから教会に仇をなすモノの末路をお見せしましょう」
「まさか。ヨハン」
「ああ、そうだ。ケン。余計なことはするな」
「おい、まだ相手は子どもだぞ」
「おい、声がでかい」
「おや、何か問題でもありますか」
司教がこちらを睨んだ。ヨハンは、右手で両目を覆った。
「すみません」
「何か言っていましたが」
「そのう、末路とか言っていたんで、まさか殺すことはしないですよね」
「もちろん。神の懐に手を差し込んだ罰は、死、です」
「ちょっと待って。カネを盗んだのは、悪い。けど、殺すというのは、何でもやり過ぎだ」
男が土下座をして、地面に顔をつけ泣きながら命乞いをはじめた。
「あなた、どこかで見た顔ですが」
「そんなことよりも、司教さんが、人を勝手に殺すのはやり過ぎだ」
「何か、勘違いしていますね。私は勝手に裁くのではありません。ナーワの領主の許可、冒険者ギルド長の許可をちゃんと受けております」
「そうだ、よそ者のあんちゃんは黙っていろ」
公開処刑をしようとしているのに誰も止めないどころか、興味津々で見に来るとは、悪趣味もいいところだ。
「ところで、あなたたち、後ろの女性もですが、神聖教会の信徒ですかな。どうもあなた達から女神の加護を感じませんが」
ヨハンが、俺の前に立った。
「もちろんです、アレッキオ司教様。ただ、こいつらは、仕事にかまけて、礼拝にあまり行かないもので」
「嘘はいけませんよ、あなた」
「あまり礼拝に行かないのは、あなたでしょう。後ろに庇っている人達には、まったく信仰を感じません」
ヨハンの後ろから、言う。
「今は、それが問題じゃないでしょう」
突然、司教が怒鳴った。
「お黙りなさい。あなた方は、信徒ではありませんね」
ホイットが、ヨハンの前に進み出た。
「そうだけど、何か問題があるの。神聖教会の信徒でない人なんて世界中に多くいるわよ」
「たしかに、女神の薫陶が届かない土地があることは、理解しております。ですが、この街は、違います。あなた達が神聖教会信徒でないことは、今回は不問にします。ですから、即刻、この街から出て行きなさい」
ホイットは、引き下がらない。
「いつからこの町は、そんな差別をするようになったの」
ヨハンがホイットと俺の腕をひいた。
「いいから、行くぞ」
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