第77話 フランカ一族
「重ね重ねご迷惑をおかけしたがね」
「あなた達は何者ですか」
「そうじゃったね。まだ挨拶の途中だった。ワシは、フランカ。みんなからはフランカ婆と呼ばれておるよ。ボルクラウの野蛮人どもから助けてくれたのが孫娘の一人、クラリ。そして、ここまで案内したのが、クラリの母親のリリアーナ、私の義理の娘だがね」
老婆は、一呼吸置いてから話を続けた。
「儂らは、フランカ一族。シービアンのフランカ一族じゃがね」
「シービアン」
「そうじゃ。世間じゃ、あまりあたしらのことを良い風にいわんからね」
当たり前だ、という言葉を飲み込む。オルフェーオの村から作物を盗んだシービアンと同族なのだろうか。それとも関係ないのか。ホイットの顔が脳裏によぎる。チャンスは一度きりと言っていた。手の平にじっとりと汗をかく。3人を一度に捕縛することはできないかもしれないが、目の前の婆さんだけなら、捕まえられる。人質にできれば、交渉も可能になるはずだ。
フランカは、顔を正面にいるクラリとリリアーナに向けたまま、俺に言った。
「馬鹿なことを考えるもんじゃないが」
「何も馬鹿なこと考えてないよ」
「ほう、そうかね。声が震えているが、気分は大丈夫かね」
「オントラント村で先日、農作物が盗まれた。盗んだのは、多分シービアンだと思う。あなた達と関係があるのか」
「オントラント村。さあね。クラリ何か知っているかが」
「姉ちゃんと、爺さんが、祈りに行った所かもしんねえな」
「祈りじゃない。盗みだ」
「だから、神聖教会の馬鹿どもは嫌いだよ」
「俺は、信者じゃない」
「ほうほう、珍しい。では何を信じて生きておるが」
「そんなことよりも、あんたらが盗んだのか。盗んだなら、返してくれ。俺は冒険者ギルドに所属していて、それに関して依頼がでている。わかるだろう。盗まれたものが返ってこなければ、あんた達を捕まえる必要がある」
「あんたらから見たら、盗みかもしれんが、儂らが、畑でお祈りをするから、毎年作物が収穫出来ていると言ったらあんたは信じるかね」
「俺は、ケンだ。信じる信じないじゃない。勝手に他人の作物を持って行ったら泥棒だ」
「おばあ、こいつらには話してもわかんねえんだよ。無駄無駄。だから、あたしがいつも言ってんよ。泥棒呼ばわりする奴らのために、祈ってやる必要なんてないんだよ」
「お前は黙っておれ。これは、我ら一族にしかできん使命じゃが」
「誰に何を祈っている?」
「精霊の皆様方に、祈りを捧げている」
「おばあ、説明しすぎ」
「クラウ、黙ってお聞き。ワシは、この出会いが偶然だとは思えん」
それまで黙っていたリリアーナが口をはさんだ。
「どういうことですか、お婆様」
「これまで、クラウが仕事をしくじったことがあったかのう」
「いいや、ない。今回は、たまたま手がすべった」
「シービアンの名を聞いて、これほど動揺せん人はこれまでいなかった。まるで、生まれたての赤子のようじゃが」
「それは、買いかぶりすぎだ。こいつが、間抜けだからだろう。それともおつむが足りないか」
「間抜けや、考えの足りない御仁が男3人に絡まれているシービアンの娘を助けてくれたか、これまで」
「そんな骨のある、勇気のあるヤツはいなかった」
「あんたらの話に興味はない。早く作物を返すか、どうか決めてくれ」
「せっかちじゃのう、ケン殿は」
「気持ち悪い。殿なんてつけないでくれ」
「作物は返せん。だが、売って得た代金は返そう」
「おばあ、それじゃあ、あたしらの祈り損じゃないか」
「これも精霊様のお導きじゃが」
「のう、ケン殿。手付金として、これを持って行ってほしい。残りは、後で届けるとな」
「差し出された袋の中身を確認する。硬貨が数十枚入っていた」
まあ、婆さんを人質に取って、これで良しとするしかないだろう。
「それじゃ、約束は守ってくれよ。婆さんは、俺といっしょに来てくれ。人質じゃないが、担保が必要うだ」
「けっ。人が良いね」
「それじゃ、お嬢さん。一緒に冒険者ギルドに人質として同行してくれるかい」
「あたしを捕まえられたらね」
「およし、クラリ。あんたじゃ敵わないよ」
リリアーナが心配そうに娘をたしなめた。ドアがノックされた。リリアーナが、ドアを少し開けた。ドアの隙間から見えたのは、ひげ面の男だ。
「移動の時間だ」
「それじゃ、ケン殿。またお会いしましょうが」
いつの間にか婆さんは、リリアーナの隣に立っていた。
「おい、待て。婆さん」
婆さんが移動したのに全く気づかなかった。いつのまに。どうやって?
「兄ちゃん、こんどは、懐に気を付けなよ」
一瞬、部屋の中が光に満たされた。目を開けると部屋にいた三人は、音もなく部屋から消え去っていた。残されたのは、香炉の煙と俺だけだった。
「なんだよ」
それまでフランカ婆さんが座っていた目の前の席に腰を下ろした。イスには、婆さんのぬくもりが確かに残っていた。机に突っ伏した。
「婆さんひとり、捕まえておけないじゃないか。くそったれ」
拳で机を叩く。乾燥した木の音がした。
「種も仕掛けもありませんか。ああ、むかつく。なんなんだ、シービアンって」
ドアがいきなり開いた。小太りの中年男が、棒を持って立っていた。
「おいこら。この部屋で何をしている」
「いや、何も」
婆さん一人、捕まえられず落ち込んでいるなんて言えやしない。
「この浮浪者め、どうやって忍び込んだか知らんが、とっとと出て行け」
男は、棒を振り上げ、威嚇した。
キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン
飄歩
さっと、男の脇を通り抜け通りに出た。
男は、俺が脇をすり抜けたことに気づいていないようだ。まだ部屋の中を見ている。これ以上面倒を起こさないために、さっさと逃げだすとしよう。
ここまでで新しく覚えた技。
縦拳烈火
縦拳の強化版 火傷の追加ダメージ
正拳氷牙
正拳の強化版 凍傷の追加ダメージ
二連拳風牙
二連拳の強化版 裂傷の追加ダメージ
貫手漏地
貫手の強化版 エナジードレインの追加ダメージ
一本木成
一本突きの変化版 微少な傷回復機能
退歩金剛掌破
一歩引いた脚と、前に突き出した反対の腕を一直線にすることによって、向かってくる相手を返り討ちにするカウンター技。使うのに勇気が必要であり、さらに使いどころが難しい。
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