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第75話 掏摸

「助けて。誰か」


 通りから女性の叫ぶ声がした。通りの真ん中で3人の男に、1人の女の子が囲まれている。通りを歩く人々は、遠巻きにその様子を見守るだけで、助けようとはしなかった。


「助けないと」


 俺は、腕をぎゅっと捕まれた。オルフェーオさんが、俺の腕をつかんでいた。


「奴らに関わんな」


「奴ら?」


「見ろ。体の一部に双牙の入れ墨が入っている。奴らは、裏市場を仕切っているチンピラども、ボルクラウだ。今奴らともめるのは、ホイットさんのためになんね」


「でも、女の子が」


 オルフェーオは首を横に振った。


「この街ではよくあることだ」


 俺は、ホイットの顔を見た。ホイットも俺の顔を見ていた。


「ホイット、しばらくお別れ、でいいよな」


 ホイットは、肩をすくめ、うなずくと、すっと消えた。相変わらず素早い行動だ。


「オルフェーオさん、街の外まで走って逃げてください。後で絶対に追いつきますから」


「おい、俺の話を聞いてなかったんか」


「かっこつける訳じゃないんです。もしも自分の妹だったと思うと、どうも」


 オルフェーオの手を払って男達に近寄る。


「すみません。すみません。この子が何かしましたでしょうか」


男達がポカンとしている間に、女の子と男達の間に割って入る。


「なんだ。テメエは。一番体の大きな男が、指を鳴らした」


女の子を庇うように男の正面に立つ。女の子も俺に体をグッと寄せてきた。


「ちょっと、この子の知り合いで」


「もしも、何かしでかしたのなら謝ります。この通り」


頭を地面と水平になるほどに下げた。男が一歩近づいてきた。寒気がした。顔を上げる。目の前に男の拳が見えた。ホイットの掌底よりは遅い。だが、よけきれない。深々と頭を下げていたからだ。首をひねって、拳の衝撃を受け流す。首がボキボキと音を鳴らした。口の中に血の味が広がった。


「ほう、多少は喧嘩慣れしてんじゃあねえか」


「おい、テメエら、このお調子者を嬲ってる間、その女ネズミから目を離すな」


「ハイ」


 他の二人の男達は、元気よく返事を返した。ちらっと、オルフェーオを見ると、ときどきこちらを振り返りながらも城門を目指して小走りで向かっていた。覚えてからまだ使ってない、上級練気言祝を唱える。


 キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


 ビデオの説明では、より多くの気を纏い、初級者の攻撃は無効にできると言っていた。どこまで本当だかはわからないが、唱えただけで、強くなった気になるから不思議だ。


拳相相手の攻撃を見切る。


 男が、無駄のない動きでジャブを打ってきた。相手もかなり喧嘩慣れしているようだ。だが、拳の軌道まで丸見えだ。紙一重でよける。


飄歩


 相手の後ろに音もなく回り込む。自分の背中から軽く相手にぶつかっていく。


鉄山靠


 前のめりで男は吹っ飛んだ。周りを取り囲んでいる人垣から、驚きと歓声が沸き起こった。


「痛い。離せよ」


 人垣の方から女の子の声がした。法衣をきた男と、その脇に控える男2人が、人垣をかき分けて現れた。助けたはずの女の子が人垣の中から法衣を着た男に引きずられるようにして引っ張り出されてきた。服装からして神聖教会の司教のようだ。すると、脇に控えている男達は、守門官や退魔官かもしれない。野次馬の中には、手を組んで司教に向かって祈りはじめる人もいた。


「おい、はなせ、コラ」


 女の子は、口汚く手を持つ男を罵った。出来れば教会とは関わりたくないが、ここで逃げ出すのも変だ。困ったことになった。法衣を着た男が口を開いた。


「まったく騒がしいことです。これは、何の騒ぎですかな。アポディーオさん」


「これは、良いところに来てくれましたアレッキオ司教様」


「この女が、私の懐から財布を掏ったので、懲らしめようとしていたところ、仲間が助けに入ってきたところなんです」


 おいおい。マジか。この子が掏り。


「私は、財布なんか掏ってない。掏ったっていうなら、財布を見つけてみろ」


 女の子が、服を一枚一枚脱ぎはじめた。誰も、女の子を止めない。ふと、腹に違和感、重みを感じた。服の上から腹の膨らみをなぞる。


 膨らみは、財布のような気がした。いつ、どやって入れた。まずい。これはまずい。女の子と目が合う。笑っているように見えた。とんでもないガキだ。財布を掏るのも得意なら、その財布を違う人の懐に忍び込ませるのも得意ということか。


「おお、いいぞ。立派な脱ぎっぷりだ」


 みんな女の子のストリップショウに注目している。仕方ない。懐に手を入れて、財布をつかむ。腰を落とし、財布を拾い上げた振りをする。


「おお。財布なら、ここに落ちているぞ」


 女の子は、キッと俺を睨んだ。男達も俺を睨んだ。野次馬たちも、何故か俺を睨んだ。司教も俺を睨んだ。そんなに睨まれることをしたか。


 男達が、俺を指さした。


「アレッキオ司教様、こいつは女の仲間です」


 財布を男達から少し離れたところに投げつけた。タイミングよく、群衆の中から誰かが叫んだ。


「火事だ」


 見ると、いくつもの煙が湧き上がり、辺りに煙りが漂ってきた。


 キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


飄歩


 こうなったら逃げるが勝ちだ。


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