第73話 シービアン
興奮している爺さんを落ち着かせるため、冷たい水をロラさんから買い、コップに注いで手渡した。コップを持った爺さんが、おっと言う顔をして一口水を含んだ。
「旨え。よーく冷えている。オメエさんら魔術師か」
「違います。魔導具使いです」
「オラにはどっちでもええ」
「ところで、シービアンって何ですか」
「農家の敵だ」
ホイットが解説してくれる。
「シービアンは、流浪の民とも呼ばれている」
「そんな生易しい奴らじゃない。折角、たんせい込めて育てた作物を盗んで行きやがる小悪党どもじゃ。おお、そうじゃ。オメエさんらが冒険者なら、依頼する。シービアンどもを追い払ってくれ」
「ここで、依頼ですか?」
ホイットを見る。ホイットは、顔を横に振った。
「お爺さん。依頼は、冒険者ギルドを通してください」
「馬鹿言ってんな。ここから冒険者ギルドがあるのは、グランツルか、ナーワだ、そんなところに行っている間に、全部盗まれちまうよ」
「爺様、どうしただか」
畑の中から、若い女が出てきた。女は、手に鎌を持っている。
「ああ、アガット。実は、この人たちは、冒険者らしい」
「それじゃ、爺様。村で相談してシービアンの退治をお願いしたらどうかね」
「おお、それじゃ。それじゃ。村のみんなに相談するから、ここで待っていてくれねえか。多少のカネは用意出来るはずじゃ。それじゃあ、アガット、先に行って村のみんなを集めておいてくれ。ワシもすぐ行く」
「はいよ」
若い女は、元来た畑に戻っていった。
「それじゃあ、ここで待っていてくれよ。すぐに戻る」
爺さんも、小走りで走っていった。
「どうするのケン」
「困ったな。まだ依頼を受けるともなんとも言ってないのに」
軽バンに戻り、ナビを確認する。確かに近くにオントラントという村がある。30分もすれば戻ってくるだろう。
「ホイットは、ここで待っていてくれ。俺は、軽バンで末社を埋めてくる」
「了解した」
ホイットをその場に残して、末社を埋める場所を探る。10分ほど、走らせて良さそうな場所についた。それにしても広大な畑だ。農業の経験はないが、機械を使わず、管理できる広さじゃないだろう。魔導具やら、魔術の恩恵を受けているのかもしれない。
「もしかしたら、隣村の畑もあるのかもしれないな」
ホイットの警備がないので、猫耳ニットキャップを念のため付ける。グランツルで思いがけず大量の感謝ポイントを得ていたので、ケチケチしない。
万能スコップと末社を手に軽バンを降りた。手入れされている畑の土に万能スコップを差し込む。まるで水面にスコップを差し入れたかのように、抵抗がない。末社を埋めるのが楽で助かる。
背後で、土を踏む音がした。素早く、末社を埋め。戦闘態勢に入る。現れたのは、中年の男性だった。あごひげを生やし、顔も腕も真っ黒に日焼けしていた。服の上からも筋肉質だとわかる。
「人の畑で何をしている」
「すみません。別に何もしていません。余りに、青々としげっているので、ちょっと土の状態を見せてもらっています」
「どうやって、その乗り物でここまで入ってきた」
男は、軽バンが通ってきたであろう方向を見た。
「これは、魔導具で、畑に悪さはしません。お仕事の邪魔だったら、すぐに移動させますから」
「そんだら、すぐ、どけろ。人の畑に無断で入んな」
「すみません、これから気を付けます。ところで、この畑は、オントラント村の畑ですか」
「もちろん。俺は村長代理をしているオルフェーオだ。村に何か用か」
「先ほど、畑の真ん中でお爺さんとその娘さんにあったのですが、これから村人を集めて、シービアンの対策をしてほしいといわれたのですけど」
「はあ。おめえ、何言ってんだ。おら達は、昼間、畑で仕事してんだ。今から仕事をほっぽり出して村に帰れるわけねえー。それに、シービアンがここら辺に居るって、誰が言ったんだ」
「だから、お爺さんと娘。お爺さんの名前は聞いていませんが、娘さんは、確かアガットさん」
「オントラント村に、アガットという娘は居ねえ。オメエさん、誰かに化かされてねえか」
久しぶりに、左足がズキズキ痛みだした。
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