第72話 農地
青空に白い雲が東の方に流れていく。潮の香りを含んだ風が、軽バンの窓から流れ込む。グランツルから海岸線を左手に見ながら北上した。しだいに村と農地が増えてきた。軽バンの左右には、軽バンの車高よりも背の高い作物が青々と茂っていた。ときどき、作業の手を休め、遠巻きに白い軽バンを眺めている農民たちも見かけるようになっていた。
「グランツルって、田舎だったんだな」
隣のホイットは、暇そうに窓の外を見ているだけで、返事もない。グランツルを出発してから、2日経つが、ずっと不機嫌だ。隣でブスッとしていられるのは、なかなか精神的につらい。この世界に来る前に、ナオともめていたことを思いだし、余計気がめいる。
「銀翼も今ごろ、出発したかな」
「そんなに、心配」
お、反応があった。これは吉兆だ。
「そんなには、心配してない。みんな手練れだからね」
「そうだな。フラン以外は手練れだね。だから、フランという女が心配か、と聞いているの」
「だから、そんなに心配してない。話だよ、話。今ごろ、銀翼のみんなは元気しているかなあという話。わかった?」
「わからない」
なんだか、さらに機嫌が悪くなったようだ。もうしばらく仕事に集中しよう。ナビの画面を確認する。ちょうど、神域を囲み終わった。あとは、末社を埋めるだけだが地図で埋める場所を確認すると、どうやら誰かの農地の中に埋めなければならないようだ。
軽バンで土地に入ったといっても、土地を荒らすことはない。通った痕跡ものこらない。だが、畑の所有者が、ずかずかと自分の土地に入り込む軽バンを目撃したらクレームを入れたくなるだろうということは、想像できる。
軽バンを道の真ん中にとめて、周りを確認する。誰もいない。思いっきりハンドルを切って畑の中に分け入っていく。背の高い作物が軽バンの左右に綺麗に分かれていく。紅海を割ったというモーゼもきっとこんな気分で海を渡ったのかもしれない。
感動していると、ぱっと視界が切り替わり、別の農道に出た。先ほど走っていた道より狭い。畑の中の作業用の道といった趣だ。地図を確認する。しばらくは、この農道を進んで良いようだ。
出発しようとアクセルを軽く踏んだとき、農道の真ん中に、鍬を持った爺さんが飛び出してきた。反射的に、クラクションを鳴らす。初めて聞いたであろうラクションの音に、爺さんは腰を抜かし地面にへたり込んだ。
次の瞬間、急ブレーキを踏むか、通り抜けてしまうか、判断に一瞬迷ったが、急ブレーキをかけた。タイヤは、地面を削り音を立てて爺さんの手前で止まった。運転席の窓ごしに、爺さんに声をかける。
「大丈夫ですか」
股の間に小さい染みが出来ていた。チビってしまったようだ。申し訳ないことをした。鍬の柄を杖代わりにして、爺さんが立ち上がった。足が震えている。
「コラああ。オメエ達、ここで何をしてるだ」
鍬を上段に構えた。
「ごめんなさい。怪しい者じゃないんです。冒険者ギルドの冒険者です。仕事の依頼で通りかかったんです」
仕事の依頼など受けていなかったが、嘘も方便だろう。グランツルの冒険者ギルドでもらった資格書を取り出し、フロントガラス越しに示した。爺さんは、それでも信用していないようで、構えをくずさなかった。鍬の先は、頭の上でフラフラと揺れていて危なっかしい。ホイットが、助手席の窓から、顔を出して、爺さんに声をかけた。
「おじさん、大丈夫ですか」
ホイットを見て、爺さんの表情が緩む。
「おお、大丈夫だ。オメエさんも、冒険者か」
ホイットは、軽バンをおりて、爺さんに近寄っていった。
「そうです。仕事の途中なんです。これは、特殊な魔導具で、ケイバンといいます。おじさんは、ここで何を」
「オラは、コソ泥どもを懲らしめようと待ち構えていたんだ」
「こんな真っ昼間から、泥棒がでるんですか」
「オメエさんら、知らんのか。最近この近くで、シービアンが目撃されておる」
軽バンをおりて、爺さんに頭を下げる。
「驚かしてすみませんでした」
爺さんは、しかめっ面をして叫んだ。
「オメエは、オラを殺すつもりだったな」
ここまでで新しく覚えた技。
拳相
相手の攻撃が見える
気受け
オーラ、魔術を受けるダメージの半減
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