第70話 スケルトンの守護者
マリアの驚いた顔が無限に増殖し、部屋中に広がった。驚いたマリアの顔も美しい。美人はやはりお得だ。それに比べて自分ときたら。スケルトン兵士越しに見た自身の姿に、今更ながら、少しだけがっかりする。いつも手鏡で見てわかっていることだけど、見比べるとその違いは歴然で残酷だ。
ん?
待てよ。鏡に映った自分の姿に違和感を感じる。ダーチャが驚きの声を上げた。
「なんですか、この部屋。気持ち悪い」
マリアと鏡越しに目があった。
「ナオ様、一回外に出ましょう。一応、目的は達成しました。このスケルトン兵士の気持ちが変わらないうちに外に出ましょう」
マリアが私の腕をとった。
「ダッチャ。出よう。下がって」
「きゃああ、誰かお尻触っている」
ダーチャが部屋の中に飛び込んできた。ダーチャの後ろから現れたのは、バルドビーノだった。
「バルドビーノさん、ご無事で」
「ああ、あれぐらいで死ぬことはない」
顔は笑っていたが、その眼は血走っていた。言葉遣いも、乱暴だ。
「バルドビーノさん、ペペロンチーノ」
「ああ、ペペロンチーノさ」
バルドビーノは、私たちを押しのけてスケルトンの兵士と向き合った。
「ああ、忌々しい。お前は、そんな姿になっても、なお主人の帰りを待っているのだな」
「バルドビーノさん、あのスケルトン兵士のことをご存じなんですか」
「ああ、良く知っている。あれは、氷のスケルトンナイトとも言うべき存在じゃ」
「氷のスケルトンナイト」
部屋の中央に立っていた、スケルトンの眼に青白い炎が宿った。部屋の温度が、一気に下がった。吐く息が白くなった。
「ほほう、面白い。儂と勝負をしようというのか。相変わらず愚かじゃ。どんなに頑張ってもお前らでは、儂には勝てんのにのお」
ダーチャが叫んだ。
「ナオ様、早く、逃げってください」
バルドビーノが、私の手を握った。
「駄目じゃ。お前がもし、聖女なら、しっかりと儂とこいつの戦いを見極めろ」
「館長、ナオ様の手を離しなさい」
マリアが、握っているバルドビーノの手に手刀をたたき込んだ。手刀が当たる寸前で、バルドビーノが手を放したので、マリアの手刀は空を斬った。
「内輪もめしている場合じゃないじゃろう」
スケルトンがバルドビーノの頭上に剣を振り下ろした。バルドビーノは、杖でその斬撃を受け止めた。
「相変わらずのなまくらじゃ。不死者なら、不死者らしくあの世へ行け。ヘオフルム ゲレーデ イェフェル サワァラ ベオ」
スケルトンナイトの動きがとまり、砕け散った。砕けた破片は、細かい氷のつぶとなって部屋中に散らばった。さらに部屋の温度が下がった。頬に突き刺すような寒さを感じた。鏡には、破裂した氷の粒はうつっていない。
「おかしい」
「ナオ様、はやく、お、逃げ、くだ、さい」
マリアを見ると、体に無数の霜がついていた。顔面は蒼白で、唇の色がない。ダーチャにも霜がついていて、すでに気をうしなっていた。バルドビーノがうめき声を上げた。
血糊のべったりついた氷の剣がバルドビーノの腹から突き出ていた。バルドビーノの背後に、スケルトンナイトが立っている。バルドビーノの背後から剣を突き刺したようだ。いつの間に。バルドビーノは、唇から血を垂れ流しながらも呪文を唱えた。
「フィレスアック スティーゲ オンアポ」
スケルトンナイトは、剣を放し、後ろに飛び退いた。それまでスケルトンナイトがいた場所に火柱が湧き上がった。バルドビーノは、腹に刺さった剣を抜こうともせず、スケルトンナイトをにらみつけた。
「ほんとに、まったく忌々しい骸骨だ。だがな、お前に良いものを見せてやる。エセ セフォン アム」
床とスケルトンナイトの胴体から、バルドビーノの腕が生えた。七本の生えた腕はスケルトンナイトの体を拘束した。気持ち悪い。スケルトンナイトは、明らかに邪悪な存在だと思っていたが、バルドビーノの腕の方が何倍も邪悪に見えた。マリアが床に倒れた。松明が床に転がった。
「ちょうどいい。聖女ナオよ、今から儂を取引をせよ」
「バルドビーノさん、どうしたんですか」
「よいか、これから儂の言う言葉を一語一語正確に発音せよ、そうすれば、マリア達全員を無事に地上に返してやる。断ったら。マリア達はここで死ぬだろう」
「バルドビーノさん。あなた、何者?」
「儂のことが知りたければ、もう一度、鍵を用意してこの部屋に戻ってくれば良い」
「ただし、お前が大切に思っているマリアやダーチャたちを敵に回しても真実を知りたいという覚悟があればの話だが」
「どういうことですか」
「長話をしている余裕はない」
「儂の七手でヤツを縛り続けておくには、今の儂は、年を取り過ぎた。どうする」
「わかりました」
「べ スイベ 」
「べ スイベ 」
「バイネ エアディガン」
「バイネ エアディガン」
「メグデンス ナマン ビデンド」
「メグデンス ナマン ビデンド」
「バルドビーノ フォーレファッンド 」
「バルドビーノ フォーレファッンド 」
「アビーデン エス 」
「アビーデン エス 」
「スターレ ウンバンデネス」
「スターレ ウンバンデネス」
「さらばだ、骸骨。これで儂は永遠の刑から逃れ、るこ、とが、で、きる」
バルドビーノの口から血が噴き出した。バルドビーノの口が動いた。しかしそれは、音を発する動作ではなかった。目の前が、光に満たされた。目を閉じたが、光は消えず、白い世界の中を一歩も動けなかった。
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