第67話 スケルトン軍団
一列になってオブリタステラムへと続く、地下通路を降りていく。地下通路は、天井も高く、人が横に三人ならんで歩いても余裕があるほど広い。天井も壁も床も鉋で凸凹を削り取ったかのように平らな石材で出来ていた。それらの表面に苔やカビなどは付着しておらず、先頭を歩くマリアの松明の明りを複雑に反射している。
マリアの後ろをダーチャが黙ってついていく。ダーチャの後ろには、なぜかバルドビーノと手を繋ぎ私が続く。いざ、オブリタステラムへという段になってバルドビーノが手をつながなければ、行かないとごねだしたからだ。訓練のときは、あれほど健脚だったのに、どうして手をつなげと命令するのか理解に苦しむが、命令だと割り切る。はじめは気持ち悪いと思っていたが、しだいに手を繋ぐ感覚にはなれた。別段嫌でもなくなったのは、不思議な感覚だった。そんなことよりもオブリタステラムの雰囲気に飲まれたからかもしれない。
オブリタステラムの詳しい地図の写しは、バルドビーノが所持していた。必要に応じて先頭のマリアに指示を出すことになった。バルドビーノは、ほとんど地図を暗記しているようで指示に迷うことはなかった。
その地図とは別に、私を含めた女性3人は、訓練の合間を縫って各自がそれぞれ自前の地図を作成し所持していた。これもバルドビーノの指示で、万が一に備えてということらしい。荷物は、みんなリュックに詰めて持ち運んでいるのだが、バルドビーノだけは、肩掛け鞄だけを下げていた。訓練のとき、あめ玉一つで食事を済ませていたぐらいだから、それで十分なのかもしれない。
「その門をくぐれば、オブリタステラム内部に入ることになる」
バルドビーノのささやくような声が地下通路に響き渡ったように聞こえた。バルドビーノが、繋いでいる手の甲を軽く叩いた。
「今からそんなに緊張していると、もたんぞ」
「ありがとうございます」
バルドビーノの指さした門には、細かな印が無数に施され、ほのかに光って見えた。マリアは、その印に指を這わせながら言った。
「ずいぶん古い印ですね」
「そうじゃ。これは古い印だ」
バルドビーノの横顔には、懐かしんでいるようにも、なぜか悔しがっているように見えた。
「さあ、行こう。ここからは、物陰が多い。気を緩めるよ。大声も禁止じゃ」
お互いの顔を見合わせ、うなずき合った。門をくぐるとたいまつの光に照らされ闇の中に建物が浮かび上がった。あらかじめバルドビーノが決めた間隔を守りながら進んでいく。時間の感覚がなくなっていく。ただ、前を見て歩くだけなら山登りの方が簡単だ。今は、周りを警戒しながら進まなければならない。緊張感が、疲労を倍加させていた。バルドビーノのが、杖で地面を三回叩いた。止まれの合図だ。
「休憩じゃ」
バルドビーノが休憩場所として選んだのは、石造りの小さな小屋の中だ。豪華な屋敷の庭の隅にあるような倉庫小屋という趣だ。周りに適度な空間があり、身を隠すのに都合がいい。近づいてくる者を素早く気づくことができる。温かく甘い飲み物を飲んで機嫌を戻したダーチャが、バルドビーノにヒソヒソ声でたずねた。
「ここの住民は、どこに消えたんでしょうか」
「さあな。それは今も研究中、つまり不明のままじゃ。なんせ、この古代遺跡に住んでいたのは文字を持たない民族だったというのが定説じゃから」
マリアはぽつりと言った。
「言葉を持たない民族が、このような巨大な都市をつくれるのでしょうか」
バルドビーノは、答えず、手に持った飲み物を飲み干した。
「休憩は終わりのようじゃ」
バルドビーノが、ひとり小屋の外に出て行った。みんな荷物をリュックに押し込みバルドビーノを追う。
「どうしたんですか」
「スケルトンどもに囲まれたかもしれない」
ダーチャは、両腕を交互に叩いた。
「アンデットなら、まかせて。一発で昇天させてあげる」
マリアが松明の明かりで暗がりを照らす。無数のガイゴツが、小屋を取り囲むようにして、ゆっくりと向かってきていた。バルドビーノの声がうわずっていた。
「こりゃあ、すごい。こんな大群は、儂も今まで一度もみたことはない」
よく見れば、手に剣や短剣、盾などをもったものもいる。
「いちいち相手していられない。手薄なところを突破しましょう」
マリアが、一歩を踏み出したとたん、バルドビーノが呼び止めた。
「そっちじゃない。儂らが向かうのは、こっちじゃ」
「今は、この囲みを突破することに集中するべきです」
「だめじゃ、だめじゃ、儂らの荷物では、遠回りしている余裕はないんじゃ」
「わかりました」
マリアは、松明を掲げ、バルドビーノの指した方向に向かって突進した。ダーチャとマリアが声をそろえて呪文を唱えると、青白い光に全身が包まれた。
「アンデッドにとって、この光は、毒です。近寄ってきませんので、ナオ様、館長は、私たちから離れずついてきてください」
マリアとダーチャが開けた包囲網の穴に向かって突進した。頭上に獣の声がこだました。突風が巻き起こり、砂埃が舞い上がる。一瞬視界を遮ったのは、巨大な羽を持つ、スケルトンだ。手をつないでいるバルドビーノに力がこもった。
「あれは、スケルトンワイバーンだ。儂も、あれは、一度しか見たことがない」
マリアが怒鳴った。
「館長、ナオ様、走って」
マリアとダーチャがこちらに向かって手招きしている。バルドビーノの手を引いて走り出す。考えるのは、この囲みを抜けたあとだ。バルドビーノが手をはなした。振り返ると、バルドビーノの背中に子供ほどの大きさのスケルトンが抱きついていた。苦笑いをうかべ、バルドビーノが言った。
「先に行ってくれ、必ず追いつく。道は守り袋の中じゃ」
ふたたび、突風が巻き上がり、マリア達がこちらに近づくのを防ぐように、スケルトンワイバーンが上空から舞い降りた。細かい砂が舞い。視界を奪う。目を開けていられない。だれかが肩をつかんだ。触って見る。骨だ。スケルトンの指だ。頭が真っ白になった。その骨を払い落とし、悲鳴を上げ、逃げ出した。
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