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第64話 ルチャーナ

ダーチャが満面に笑みを浮かべていった。


「アドソ魔術学校の学生は、この町にあるお店で食事をする限り、どんなに食べても、何を食べても無料です」


 マリアは、テーブルの上に置かれた品々を指さして言った。


「ダッチャ。私たちは、もうここの学生じゃ無いんだから」


「でも、マリー。せっかくティンカールーインに来たんだから、羊の腸詰め亭のスープを飲まないのは、不幸だし。三角屋根のパイ包みを食べない選択肢はないし。時計台飯店の焼き肉と青の牛角亭の蒸しパンサンドは絶対外せないし。フルーツジャムサンドは、朝食の〆には必須でしょう」


 宿屋の二階の窓からは、アドソ魔術学校の生徒達が、授業を受けるため四方八方散り散りに歩いて行くのが見えた。授業を受ける教室が点在しているからだろう。深刻そうな顔をしている男子たち、楽しげに話しながら歩いていく女子たち、生徒といってもいろいろだ。隣で同じくマリアが通りを見下ろしている。


「懐かしい? マリア」


「そうですね。今思えば良い時代でした」


「早く、ナオ様、マリー、食べましょうよ。温かい料理が冷めちゃうよ」


「まったく、朝から食欲旺盛で結構ですけど、どうやって三人目を探し出すか考えてよ」


 ダーチャが用意してくれた席に座る。美味しそうな匂いが食欲を刺激した。


「いただきましょう」


「いただきます」


 スープを一口のむ。胃の中が温かくなり、口の中にうま味がじんわり広がった。



「こんな料理を毎日食べていたら太っちゃうね」


「そうですよね。仕方ないですよね」


 マリアは、雑穀パンを小さくちぎりスープに浸してから口に入れた。確かに良いアイデアだ。マリアが口を開いた。


「昨日のルチャーナの話をまとめると遺跡へ入るためには、パーティーを作って、学長に申請する必要があります。パーティーメンバはだれでも良いというわけではなくて基本的に、卒業生である必要があります」


 ダーチャは、食べ物を口に入れたまま発言した。


「それも、3人以上必要なんでしょう」


「私とダッチャは良いとして、あと一人、卒業生が必要です」


「卒業生は、だいたいみんな神官になるの?」


「大部分は、教団で神職として活動します」


「それじゃあ、ベイナキュブに連絡して、誰かもう一人、応援に来てもらえないかしら」


「手紙を書いてみましょう。多少時間がかかると思われますがよろしいでしょうか」


「ええ、もちろん」


「ちょっと待って、マリー。卒業生なら、ここティンカールーインにもたくさんいるわ」


「え、そうなの」


「この学校の先生たちは、もちろんこの学校の卒業生ですよ」


「ダーチャ、頭良い」


 ドアがノックされた。マリアがドアを開けた。ルチャーナが封筒を持って立っていた。


「朝食中だけど、入って」


「いいえ、ここで大丈夫。古代遺跡へ向かうための申請書一式を持ってきただけだから」


「ルチャーナさん」


 急いで立ち上がってルチャーナに近づく。


「お忙しいところありがとうございます」


「ええ」


 単刀直入に斬り込む。


「ルチャーナさん。私たちと一緒にパーティーを組んでください」


 ルチャーナも、間髪入れずに答えた。


「お断りいたします」


「どうしてですか。古代遺跡はもしかして危険な場所なのでしょうか」


「私は、古代遺跡に足を踏み入れたことはありません。その存在すらも、卒業してしばらくして知ったぐらいですから」


「なら、お願いします」


「私は、自分の仕事をしていたいんです。もちろん、何か古書があるというのなら、同行したいのですが、あの遺跡はすべて調べ尽くされています。新しい古書が出現する可能性は低い、というより、ないのでご遠慮します」


「それでは、どなたか、興味ありそうな先生を紹介していただけないでしょうか」


「この学校に残っている教授や助手は難しいでしょう」


「みんな専門分野の研究と教育で忙しいのです。いまさら、何もない古代遺跡探検について行くような物好きはいない、と思いますよ」


「どうしても駄目でしょうか」


「お役に立てず、すみません。パーティーを組めたら提出書類を持って来てください。私は、研究室か図書館にいますから」


 ここに居られる時間が限られている。一刻も無駄にはしたくない。やっぱりベイナキュブに応援を頼むしかないかもしれない。ルチャーナが、ドアを閉めるまえに、振り返った。


「そういえば。古代遺跡研究室に誰かいれば、手伝ってくれるかもしれません」


「古代遺跡研究室?」


「そうです。古代遺跡を探索、研究するのが専門の研究室です。たしか、その遺跡もかつて古代遺跡研究室が中心になって探索研究していたはずです。詳しい地図とか状況とかがわかると思います」


「ありがとうございます」


「感謝するのは、早いですよ」


「どういうことでしょうか」


「彼らは、古代遺跡を求めて一年中、東に西に旅をしております。ティンカールーインに戻って来ているのは、そうですね、一年の内、3ヶ月程度です。もちろん授業のためにですが。最近、見かけないので教室を訪れても誰も居ないかもしれません」


「わかりました。ありがとうございます。一点、お願いしてもいいですか」


 ルチャーナは、「はい」とは返事しなかった。ただ、その場に立ち止まり、こちらを見ていた。勝手にその行為を了承と捉え、話はじめる。


「古代遺跡研究室のそのときの論文、資料が図書館にありましたら教えていただけないでしょうか」


「わかりました」


 ルチャーナは、静かに、しかし速やかにドアを閉めた。できることはやったと思う。食事が終わったら、古代遺跡研究室に顔を出してみることにしよう。

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