第60話 校長室
校長室の前で、マリアとダーチャが、姿勢を正した。校長室まで案内してくれた礼儀正しい品の良い女性が、ドアをノックしてからドアを開けた。
「アージア校長がお待ちです。どうぞお入りください」
頭を下げて部屋の中に入る。正面の机に座っていた女性が、立ち上がった。「失礼します」と言ってからもう一度、お辞儀をした。
「どうぞこちらへ。事情は、カルミネ侍従長から伺っております」
アージア校長と私たちの間には、応接セットが配置されている。テーブルの上には、すでにお茶とお茶菓子が準備されていた。アージア校長に勧められるままにソファーに座り、対面する。マリアとダーチャは、座らず私の後ろに立った。
「改めまして、アドソ魔術学校の校長をしております、アージアと申します」
品の良い初老の女性がにこやかに微笑んだ。
「ナオと申します。貴重なお時間をいただきありがとうございます」
「とんでもない。聖女様のご来校、誠に恐悦至極に存じます。早速、本題に入らせてもらってよろしいでしょうか」
「はい。お願いいたします」
「まず、はじめに、フーバー教皇から連絡が来ております」
「なんでしょうか?」
「2ヶ月後には、聖地巡礼の準備が整います。それまでには、ベイナキュブへお戻りになられますようにとのことです」
マリアが、口を開いた。
「そんな話、聞いておりませんが」
アージアは、背もたれによりかかりマリアを見た。
「久しぶりですね。マリア。それにダーチャ」
「ご無沙汰しております、アージア校長。聖地巡礼の話は、まったく寝耳に水の話です。ナオ様も初めて聞かれる話かと思われます。それに、ナオ様は、アドソ魔術学校への入学を希望されております」
「確かに、教皇自ら聖女様にお話されるべき事項だと思いますが、どう言う理由でしょうかねえ。私は理由に関しては聞いておりません。もし異議申し立てしたいのなら、それは、教皇に直接お話したほうがよろしいでしょう。それに、本校への入学を希望されているとの話は、今すぐにというのは少々難しいと存じます」
「どうしてですか、校長先生」
「アドソへの入学は、一般試験か選抜試験かに合格する必要があります」
「ナオ様に試験をするというのですか」
「もしも、聖女様が、聖女としての力をお示し下さるのなら、選抜試験に合格するのは当然のことでしょう」
「でしたら、問題ないと思います。私たちは、これまでナオ様の力によって生き延びてきたようなものなのですから」
それは、ちょっと困る。光るモノを消し去る力は、問題ない。いや、問題がある。そもそもそれが魔術なのかどうか調べるためにここにやってきたのだ。あの力のおかげで人喰いスライムは、退治できたが、あのときはだれもあの力を魔術だとは言わなかったと思う。ウルツット離宮では、自分は覚えていないが、マリアもダーチャも魔術だと言ってくれた。けど、どうやったらできるのかさっぱりわからない。それを試験するといわれても、出来る気はまったくしない。
「なるほど自信がおありなのは理解しました」
自信なんて全然ない。けど、ここまで付き合ってくれたマリアとダーチャの前では、そんなことは言えない。
「時期が悪いです。選抜試験は、あと4ヶ月後、一般試験は、5ヶ月後になります。もし、お時間ができればそのときまた申請していただきたい」
「特別扱いはできない、と」
「マリア、あなたほどの才能ならわかるでしょう。この学校に途中から入学してきて、学べるものなどないのです」
「そういう訳で、聖女様。まことに申し上げにくいのですが、取りあえず、約2ヶ月ほどは、ここに滞在できると思いますので、何かお調べ物があるともお聞きしておりますが、十分な時間ではないでしょうか。もし希望されるなら、授業に参加されることも可能となるように通達しておきます」
たしかに、アドソ魔術学校に入学出来ないのは、非常に残念だが、調べ物はできそうだ。今回は、それで良しとするしかない。聖地巡礼の話は、まったく聞き覚えのない話だが、教皇に逆らうのは得策ではない。巡礼がどんな物なのかは不明だが、旅に出られるのなら、それはそれで悪くない話に思える。ドアがノックされた。アージアが返事をすると、ドアが開き女性が立っていた。
「こちらは、聖女歴史学研究室助手のルチャーナです。本校の案内をするようにお願いしています」
「ルチャーナです。よろしくおねがいします」
マリアとダーチャを見てから。ルチャーナは、眼鏡の山の部分を人差し指でくいっと持ち上げた。
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