第58話 クレート枢機卿
「クレート、貴様、何をしている」
「これは、これは教皇様。何をしていると言われまして、いつも通り、超人を作るための研究にいそしんでおります」
「ふざけるな、あれほど聖女には手を出すなと言ったのに」
「フーバー様、エヴルーからの一連の事件のおかげで、聖女に対する知見が増えました」
「そのおかげで、一つの街が消えた。それに、勝手にウルツット離宮をお前の実験のために使ったな」
「折角、カルミネ侍従長が味方になったのですから、侍従長命を使わせてもらいました」
「侍従長にウルツット離宮の使用許可は出していない」
「侍従長単独判断か、教皇様の意志かは外の人間からは判断できません。それよりも、あそこでアドソに逃げ込まれると手が出しにくいですしね」
「こんなことは、二度とするな。もし、聖女が死んでいたらどう責任を取るつもりだったのだ」
「責任を取ると言われましても、私たちがやったという証拠は何一つ残っておりません。もしも、あのとき死んでくれたのなら、私たちの敵にまわるという可能性が消失したとも考えられます」
「どうして聖女が我々の敵にまわるというのだ」
「さあ。しかしおかげで聖女の能力がかなり特殊であることは理解できました。エヴルーで襲わせたのは、先日実験した女から生まれた面白いスライムだったのですが、まさか、触れただけで消し去るとは、驚き以外にありません。いずれにしても、大変興味深い結果になりました。今後とも折りを見て聖女の力の研究した方がよろしいのでは」
「余計なことは、するな」
「そうはいいましても、ウルツット離宮では、さらに興味深い魔術が行われたようです」
「その件の報告はまだ聞いてないぞ」
「はい、私もにわかに信じられませんでしたので、慎重に吟味をしておりました」
「それで、何がわかった?」
「はっきりしたことは何も。ただ、一つの仮説を手に入れました」
「回りくどい。なんだ、その仮説とは」
「あの聖女が使った魔術は、グローリーではなかったということです」
「グローリー、だと」
フーバーの右の眉が上がった。
「馬鹿も休み休み言え。神聖教会が発足してから、一度も、一度も再現することが出来なかった魔術だぞ。昨日今日、聖女になった小娘が使えるとは思えん。ましてやあの小娘は、魔術は、全然使えなかったはずだ」
「ですが、伝説の聖女もまた、どこぞで魔術を覚えた、という話は伝わっておりません」
「聖女なら、自然と、息を吸うように魔術を使うというのか」
「そうは、言っておりません。しかし、生まれながら特定の魔術を使うことができるのかもしれません。今は、ただその使い方を忘れているだけ。少しの練習で感覚を取り戻すということもあると思われます。もし、そういうことなら大変興味深い話ですし、そのような才能、血筋があるというなら、是非ともその謎を解き明かしたい」
「駄目だ、駄目だ。おまえは二度と聖女に近づくな。いいか、お前が余計なことをしでかしたせいで、聖女が、アドソに入学したいと言い出してきた」
「ほう、それは、困ったことになりましたな」
クレートは、ニヤリと笑った。
「笑い事ではない。お前もさっき言ったであろう。あそこに逃げ込まれると、うかつに手を出せなくなる」
「たしかに、アドソの学長アージアは腹の見えない女。チェレスタ枢機卿とは犬猿の仲。面白いことになりそうですな。いっそ、教皇権限で拒否されたらどうですか」
「いいか、アドソに関しては、お前は絶対に手をだすな。シッポをつかまれる可能性もある。うつ手を間違えば、第三極になり得るのだ。ガンビットのヤツも面倒だが、アージアがはっきりと敵にまわるのは避けたい」
「かしこまりました。それでは、聖女様のアドソ入学はお認めになるのでしょうか」
「うるさい、お前には関係ない。今、策の準備中だ」
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