第49話 サーバ侍従長補佐
思わぬところから、運命は動き出す。足場崩壊事件の翌日、アルド副侍従長がやってきて事故の原因についての説明がなされた。長々と話していたが、結論としては、不明という事らしい。
現場監督の処遇について尋ねると、おとがめ無しとなったようで、ほっと胸をなで下ろす。なぜなら、原因は多分私だからだ。他の人に見えないあの光る接着剤は何なのだろうか。外の世界を知るまえに、自分のことも知らなければならないようだ。そうすると、つまるところ、私はなぜ「聖女」と呼ばれているのか、聖女とはどんな存在なのか、を知らなければならないのだろう。
自分が何者かなんて、かつては考えたこともなかった。必要もなかった。そのことを思うだけでお腹が痛くなる。
一つだけわかっているのは、うかつに光る接着剤のようなものに触るのはよそうということだ。アルドの話が終わるのを見計らって自分の希望をアルドに伝えた。
「私、図書館で調べ物をしたいんです」
アルド副侍従長は、苦虫をかみつぶしたような顔をしてから「午後までお待ちください」と頭を下げ部屋を出て行った。入れ替わりダーチャが部屋にやってきた。マリアは別件で今日は来ないと言う。ダーチャには愚痴れないがマリアがいないのは寂しいものだ。
午前は、ダーチャと共にマナーの講師からお茶の飲み方や、ナイフやフォークの使い方の講義を受けた。昼食をダーチャと一緒にとっていると、アルド副侍従長がやってきて、護衛付きで大図書館の利用が許可されたと報告してくれた。
「やりましたね、ナオ様。大図書館は、教会区の外です。街の中を歩かないと行けません。誰が護衛につくかわかりませんが、これは、チャンスです。おいしいものを食べましょう」
ダーチャもすごく楽しそうだ。自室で、わくわくしながら待っていると、年配の女性が部屋に入ってきた。頬がこけ、手足も細く痩せ過ぎの印象だ。細いフレームの眼鏡をかけ、眼光は鋭い。唇は薄く、口紅はつけてなく青白い。きっと冷え性だ。
「初めてお目に掛かります。侍従長補佐をしておりますサーバと申します」
となりで、ダーチャが「げ」とつぶやいた。サーバ侍従長補佐は、その声を見逃さず、ダーチャを睨んだ。ダーチャは知らぬ顔をして窓の方を眺めるふりをした。
「聖女様の護衛の命を受けました。よろしくお願いいたします」
「町中で聖女様というのは、少しまずいので、ナオと呼んでください」
サーバは、少し考えてから「かしこまりました、聖女様」と答えた。だから、「聖女と呼ぶな」と思ったが、黙っておく。私が聖女とばれて困るのは、護衛のサーバだからだ。アルドが、護衛といったのだから、町中でそんな初歩的な間違いは起こさないと信じよう。ただ、護衛というには、余りに貧弱。てっきりごつい体の男性兵士がやってくるかと思ったからすこし意外な感じがした。これなら、ダーチャのほうが護衛としては優秀に見える。そこまで考えて見ると、はたしてサーバの役目は護衛なのか、それとも監視なのかという疑問が湧き上がってきた。
まあ、今のところどちらにしても敵なのか味方なのか判断する材料が足りない。街に出られる、図書館を利用できるだけで進歩だ。良しとしよう。
光の回廊を通り、アルビン門の通用口を出る。街の活気がワッと体を包み込んだ。
「すごい」
ダーチャが、私の腕をとって体を密着させてきた。ふくよかなバストに私の肘が食い込む。サーバが、ダーチャを睨んだ。
「こうしていれば、姉妹にしかみえませんから」
サーバの視線は怖いが、ダーチャもサーバの雰囲気に負けず、我を強く押し出した。私もダーチャの援護のつもりでサーバににっこり微笑えむ。
アルビン門を出ると東向きに4車線ぐらいの道幅の道がまっすぐ伸びていた。南北にも道がのびていて、こちらは、2車線ほどの道幅しかない。
道の両脇には、商店が立ち並び、多くの人が行き交っている。肌の色や髪の色、服装もバラバラだ。日本の商店街というより、行ったことはないが、テレビに映ったマンハッタンの映像を思い起こさせた。ただし、車の代わりに馬に乗った人が、トラックの代わりに荷馬車が往来していた。
ダーチャは、歩きながら街の構造をささやいて教えて暮れる。
「ベイナキュブは、東西に長い長方形で、道は、東西か南北かに走っています」
つまり碁盤の目のようになっているわけだ。
「今、歩いている通りが、バルナバ大通り。教会区と大聖堂を結ぶ東西に走る大通りです。もし、道に迷ったら、まずは大通りにでることを目指してください。ナオ様、ナオ様」
ダーチャが、腕をゆすった。
「え、ごめんなさい。なんか久しぶりにこんな多くの人通りを見たから」
「そうですよね。ベイナキュブは世界の中心ですから、祭りのときなんか、この4,5倍の人が道にあふれていますよ」
「ええ、そう、なの」
実際は、人混みに当てられたわけではなかった。上の空で返事を返すのが精一杯だったのは、少し前を歩く、サーバ侍従長補佐の体から、光輝く無数の触手が伸びて、すれ違う人々、店に立つ定員に触れて回っていたからだ。どうか、私に触らないで。何が起こるかわからないから。
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