第48話 光るモノ
部屋から見下ろしていた工事現場にさしかかった。ワシリー宮殿からラフチス灯台へ続く光の道の南側の一部の庭園が壊されていた。草花が抜き取られ、土が掘り返された跡がまだ生々しい。先日見たときから工事は進んでいないようで、途中まで組まれた足場は先日見た時のままだ。
「これは、新しくフォーリー(東屋)を建て替えているところで、今は休止中です」
「職人さんの休日ですか」
「いいえ、ここに聖女様の仮住いをお建てしては、という案がでているのです」
「そんなこと、何も聞いていません」
思わず、強い口調になってしまった。マリアとダーチャが顔を見合わせた。2人が同時に頭を下げた。
「申し訳ございません」
嫌だ。マリアとダーチャは何も悪くないのに。これは完全に八つ当たりだ。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃないんです。まさか、そんなことまで決まっているなんて知らなかったから、ちょっとびっくりしてしまって」
「ナオ様のお気持ちも考えず発言し、申し訳ございません」
「頭を上げて。二人を責めるつもりは全くないの。だから頭を上げて。二人に聞きたいんだけど、私、ここにどれくらい住むの」
マリアもダーチャも意味がわからないという顔つきだ。質問を変えてみよう。
「もしも、教会区の外に住みたいと言ったら」
「それは、すぐには無理だと思われます」
「どうして」
マリアの声に、親しみが消え、事務口調に変わった。
「ナオ様は、教皇様と同列もしくはそれ以上の地位の御方。神聖教会の至宝でございます。ナオ様の希望がありますようでしたら、しかるべき土地にしかるべき宮殿を建設し、お住まいを移ることは可能と存じます。しかしながら、今すぐというわけにはいきません。どうか、ご容赦ください」
「わがままを言うつもりはないの。ごめんなさい」
二人の手を取って謝罪する。誰も何も悪くない。ただ、自分の思考が現実について行けないだけだ。今の私では、ここを飛び出したとして、この世界で生きていける自信などない。生きていけなければ、ケン兄といたあの場所にもたどり着くことは不可能だ。そうは言っても一生ここに住むというのは想像できない。だれかが言っていた言葉が閃いた。
(悠々として急げ)
たいして、足場に興味もないが、二人の申し訳なさそうな視線をかわすため足場に近寄って木製の足場を見つめた。よく見れば、釘やら、紐やらは使われていない。どうやって組み立てたのか不思議だ。木材と木材の間に、光る何かが付着している。強力な接着剤のようなものが塗られている。光っているのはなぜだろう?
足場を支えていた巨大な木材に付着している光る部分を指で触ってみると、光が消えた。支えがストンと抜け落ちた。バランスを崩した足場が雪崩うつように崩壊した。
「ウエラス レオート《光壁》」
ダーチャが私を地面に引き倒し、上にのしかかった。マリアは、ダーチャの上で両手を広げ仁王立ちしていた。マリアの周りにできたシャボン玉の薄い膜のようなものができていた。倒れ込んできた木材は、その薄い膜を突き破れず止まった。
「ダーチャ、早く聖女様を安全な場所に」
「はい」
ダーチャが、私を子犬を抱えるように抱きかかえ起き上がった。どこにそんな力があるのか。マリアが薄い膜を消すと、木材は、支えを失い、地面に転がった。
「何をしたの」
「神聖魔術を使いました」
「マリア。これは、おかしい。だれかの仕業よ」
「今は、ここから急いで離れましょう」
誰かの仕業じゃない。きっと私の仕業だ。だけど、言えない。だって自分でも何が起こったのかわからないのだから。光っている接着剤に触ったからといえばいいの?
「マリア、どこが光っていますか」
「光、ですか? どこも光っているようには見えません」
マリアには見えていない。やっぱり言い出すことはできない。頭がおかしいと思われるだけだ。
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