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第42話 クルトゥース出席者たち

 手に持つロウソクだけが、狭く低い天井の通路やヌメッとして滑りやすい階段を照らしていた。後ろには、教皇が付いてきているはずだが、足音は聞こえない。緊張しているからだろうか。喉がカラカラだ。上唇を舌でなめる。やがて、一枚のドアに行き当たった。やっとお役目を果たせる。あとは、教皇が部屋から出てくるまで、待っていれば良い。


 通路の脇に退き、頭を下げ、教皇に道を空けた。


「フーバー様、私めは、いつも通りここでお待ちしております」


「いいや、今回は、カルミネ侍従長にも参加してもらいたい」


 右のまぶたの筋肉が痙攣した。人差し指と中指の腹で、右のまぶたを強く押した。教皇は、異議申し立ての時間を与えず、扉の向こうに消えていった。ドアは開いたままだ。冷や汗が背中を伝った。大変なことになった。アルドに頼んだお菓子を娘と食べることが出来るかどうかさえ怪しくなった。この事態は、先代侍従長からの申し送りにも無かった。記憶の底から一つだけ先代の言葉が浮かび上がってきた。


(クルトゥースには極力関わるな)。


 冷や汗が、今度は、頬を伝わった。


「カルミネ侍従長」


 教皇が部屋の中から呼んでいた。カルミネは、覚悟を決めてドアをくぐった。静かにドアを閉める。円形の部屋だった。部屋の大きさは、侍従長の執務室よりも狭く天井も低い。カルミネが手を伸ばしてジャンプすれば天井に手が届くだろう。部屋の中央に円卓が一つ置かれ、革張りの椅子が8脚置かれていた。教皇は、入ってきたドアから一番近い席に座っていた。カルミネは、その後ろに立った。


 地下深くに作られた部屋だが、かび臭さやほこりっぽさは感じない。清潔感さえ感じる。この部屋には、扉が5つあった。どの扉もデザインは同じだ。すべてのドアを開けてみたという好奇心が閃いたが、それはすぐにしぼんで消えた。先代が、クルトゥースには関わるなと忠告してくれたのに、関わることになったのだ。一挙手一投足に己の命がかかっていると肝に銘じて損はない。


 教皇の席の反対側の扉が開き、3人の男が現れた。驚きの表情が浮かばないように気をつける。彼らも、一瞬、カルミネを見たが、何も言わず席に座った。


 教皇の正面に座ったのは、アニエス枢機卿だ。枢機卿としては一番若いはずだ。40をすこし越えたぐらいの年齢だ。何の功績があって枢機卿になったのかは不明だが、人柄が良いことは巷説に広まっていた。その向かって右には、クレート枢機卿だ。こちらは、アニエスとは対照的で、無愛想でとっつきにくい人柄なのに、何故か枢機卿になったとして有名だ。年は50歳ぐらいで、アニエスほどではないが枢機卿の中では若い部類に入るだろう。その右には、見知らぬ若い男が座った。たたずまいからして軍人のようだ。


 アニエス枢機卿が、口を開いた。


「まさか、侍従長殿がこの席に呼ばれるとは思わなかった。良いのかい」


 その言葉が、カルミネに向けて発せられた事に気づくのに5秒ほど時間が掛かった。気づいてから何か言おうとして口や喉がカラカラであることに気づき、生唾を飲み込んだ。アニエス枢機卿は、にっこり微笑むと、隣のクレート枢機卿と雑談をはじめた。結局無視する格好になり、ひどく自分が場違いな場所にいることを思い知らされ、うすら寒さと居心地の悪さが倍増した。


 アニエス枢機卿らが出てきたドアとは別のドアが開いた。チェレスタ枢機卿が現れた。今度は、完璧に鉄面皮を貫けたはずだ。


 年齢不詳のこの美女は、噂では次期教皇の座を狙っていると噂されていた。とくに女性信者からは、夢見の魔女として信頼が絶大だ。アニエス枢機卿も、次期教皇の座を狙っているはずだが、この人の噂は、不思議なぐらい聞かなかった。何度も教皇への取り次ぎをしたが、その腹の内は読めたためしがない。そういう点で、アニエス枢機卿の方が、チェレスタ枢機卿よりも教皇の座に近いだろう。


 チェレスタ枢機卿は、カルミネには一瞥もくれず、アニエス枢機卿の左隣に座った。次に部屋に入ってきたのは、2人の男だ。彼らは、別々のドアから同時に現れた。一人は、7商のひとり、サンティ ジョキーノ。7商としては、新興系で、フーバー教皇のお気に入りになってから7商にのし上がった男である。


 もう一人は、貴族院筆頭のベルトッキ イルミナート。貴族院をとりまとめる議長でもある。年齢はたしか70歳。老年と言ってよい年齢になったが、年老いてますます精力的に政治活動をしている。彼らは、カルミネがいることに不快感を隠そうともせず席に座った。


 こうしてみると、これまで漠然と予想していた権力構造の裏側が、しっかりとした形を取って見えてくる。空いている席はもう一つだ。救世軍トップのガントレットはかつてはフーバーの朋友だったが、今は手元をわかっているから、この席には座らないだろう。だが、油断はできない。裏の裏のは表ということも十分あり得る。国防軍トップのカンタレッラ元帥という線もあり得る。アドソ魔術学校の校長、アージアもこの席にすわってもおかしくない。ただ、チェレスタ枢機卿とは犬猿の仲との噂だからどうだろうか。


「カルミネ君、早く、ここに座りたまえ」


 教皇から君付けで呼ばれ、カルミネは、ゆうに10秒間は思考停止した。これまで、何年も側で使えてきたが、聞いたことがなかったからだ。アニエス枢機卿が笑った。教皇がもう一度言った。


「聞こえなかったのか、カルミネ君、ここに座りたまえ」


「フーバー様が、君付けで呼んだりするからだろう。カルミネ君、いいかい、この会議にはいろいろなルールがある。そのうちの一つが、呼称だ。この会議の出席者に対する呼称は二つしか無い。様と君だ。フーバー様以外は、君付けで問題ない。わかったかな、カルミネ君」


 カルミネの思考は、この時点で完全に停止したが、チェレスタ枢機卿の「お座りなさい、カルミネ君」という艶のある声が、カルミネを椅子に座らせた。夢見の魔女と呼ばれる彼女の声には、魔力がこもっているのかもしれない。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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