表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/105

第36話 取引

 風向きによっては死臭の塊が俺を直撃する。その度に俺は、吐き気を懸命に抑えこんだ。


 夜が明けると、白き獣たちは去って行った。村にはオオカミタイプ8頭とフクロウタイプ3頭の死体が残された。銀翼と俺たちバルサの活躍によって村人たちに怪我はなかったが、家畜は、半分ほどが白き獣の餌食となって死んでしまった。村人たちは、自分たちの身の安全を喜び、家畜たちの死を悼んだ。ホイットは軽バンの屋根に仁王立ちして言った。


「これぐらいの損害で済んだのは、ケンのおかげ」

「まさか。俺は、ホイットの指示通り走っただけだから」


「こういうときの謙遜は、罪よ。間違いなくケンがいなければ、村人にも死人がでていただろうし」


 ヨハンたち銀翼のメンバーが集まってきた。


「まったく、すごい魔道具使いだ」


 ヨハンが俺の手を力強く握りしめた。


「ケンがいなかったら、俺たちも無傷じゃいられなかった。ありがとう」


 フランが俺とヨハンの間に割って入ってきた。

「あの魔道具は、ほんとに誰の作品? 見たことも聞いたこともない」


 今度は、即答した。


「それは、秘密です」


 フランは、右親指の爪を噛んでそれ以上言わずに立ち去った。


「ところで、トリリオンたちは」


 アッジーが両手を頭の上に上げていった。


「さあな、死体がないところをみると、厄介事だけ俺たちにおしつけて逃げだしんだろう」


 翌々日、俺たちはグランツルの冒険者ギルドに、ことの次第を報告した。ギルド長は、事実確認を行うためにトリリオンを探し出すように冒険者達に通達した。


 ホイットは、彼らが教会にいることをすぐさま特定した。そして、ギルド長の命令でトリリオンに冒険者ギルドに報告するように命じたが、トリリオンたちはあらわれなかった。


 それから2日後、教会から手紙が届いた。それには、トリリオン司祭預かりと記してあったという。ギルド長は、カンカンに怒って教会に駆け込んだが、けんもほろろに追い返されて帰って来た。この一件で、司祭とトリリオンの関係がはっきりした。


 教会から手紙が届けられた翌日、冒険者ギルドとしてトリリオンの資格停止40日の処分が発表された。ギルド長の意地だろう。トリリオンの処分発表と同じタイミングで俺たちバルサもギルド長に呼ばれた。


 俺の心に引っかかっていたのは、魔石の問題だ。そのことだけは、ギルド長にも報告していなかった。ホイットは、知らないふりをするべきだと言った。確かにそれも一理あった。俺たちは、この付近を神域としたら離れていかねばならないから、これ以上巻き込まれたくないし、責任もとれない。


 でも、あの司祭は諦めないだろうなとも思う。もう一度、この前と同じことが起こりうる。それならば、信頼できる有能な人に、事後を託すべきなのだが、俺には信頼できる有能な知り合いがいない。いや、正確には銀翼がいる。しかし、彼らは彼らで仕事も受けている状態らしく、当てにはできないだろう。


 それならば、やはり、ギルド長に丸投げしてしまうほうがいいのではないか。でも、もしギルド長が私腹を肥やそうとしたのなら、ジジェット村にとっては最悪の展開も考えられる。考えが堂々巡りだ。


 さてどうするべきか、心が定まらない。


「ケン、何をぼーっとしているの」


 ホイットが心配そうに俺を見ていた。俺の目の前には、ギルド長ウーゴが座って俺を見つめていた。


「と言うわけで、銀翼のヨハンからも、大変な功労者であるという証言が得られています。銀翼からの後依頼あといらいということで、少しばかりですが報奨金が支払われます。お受け取りください」


 革袋を机の上に置いた。少ない金額ではなさそうな音がした。


「これで今日の要件は終わりです。残念ながらトリリオンの奴らに関しては、手が出せない状態ですが、バルサのめざましい活躍、これからも期待しております」


 これまでの俺たちに対する態度と、ギルド運営の手腕を考慮して、思いっきって賭に出ることにした。


「実は、今回は、私たちからギルドに依頼したい件があります」


「ほう、何でしょうか」


「他言無用としていただきたい」


「それは、ちょっと、内容によりますね。情報が明らかになっていない仕事には、誰も手を上げたりしない、でしょうから」


「ウーゴギルド長に直接仕事を依頼したいのです」


「ほう。私直々に仕事を依頼したいという。ふむ。わかりました。依頼を受けるかどうかは、別にしていいというなら、話は聞きますし、他言いたしません」


 俺は、ウーゴにジジェット村が襲われた理由に関して一つの仮説を説明した。


「もし本当なら、それは大変な発見ですね。それで、私に依頼するのは、安全にジジェット村の人たちが暮らしていける方策を探し出すというものですか」


「そうです」


「なるほど、対価は」


 俺は、机の上の革袋を指さした。


「ふむ。これはかなりやっかいな仕事になりそうです」


「無理ですか」


「引き受けましょう」


「助かります」


「でも良いのですか、こんな大金をあの村のために支払ってしまって。そんなに縁はないでしょうに」


「かまいません。また違うところで稼ぎますから」


 ウーゴには言えないが、ギルドの仕事は、俺にとってはサイドビジネス。本職の地図作成の補助だからたいした痛手ではない。それよりは、土地に縛られてしまう方が痛い。


「さすが、たいした自信です。では、早速ですが、手を打ちましょう」


「もう、解決策が思い浮かんだのですか」


「ええ、魔石の取り扱いに優れているのは、なんと言っても商人ギルドです。ゾキシスという集団をご存じですか」


「たしか、魔道具の開発と販売をしている」


「そうです、ゾキシスに管理を依頼するのがもっとも良いと思われます。そうすれば司祭も簡単には、手をだせません。多少、村は賑やかになってしまうかもしれませんが、冒険ギルドも村とゾキシスの間に入って調整いたしましょう」


「わかりました。お願いします。商人ギルドにお知り合いがいるのですね」


「ええ、います。ここだけの話にしてほしいんですが、よろしいですか」


「ええ、他言しません」


「銀翼のフラン様は、7商モルド家のお嬢様なのです。ですからフラン様に話しを通せば、2,3日後には、ゾキシスの担当者が喜んでやってくるでしょう」


 そうか、そういう手があったか。ウーゴは、俺に手を差しだした。俺は、ウーゴの手を握った。これで、安心して次の土地に移動できる。


****。


 ここまでで新しく覚えた技。


鉄山靠(背中当て)。

激突技の一つ。

背中から体当たりをする。

気防御貫通。

大ダメージを与える。

技後のスキがかなり大きい。


浮雲(投げ)。

投げ技掌握の予備動作。

相手の体勢を大きく崩し倒す。

ダメージは与えない。

スキは小さい。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


「面白い!」「続き読みたい!」などと思った方は、ぜひブックマークをお願いします。

↓の評価で5つ星にしていただいたら励みになります。


よろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ