第20話 バルサ誕生
スキンヘッド三人組は、つばを部屋に吐き、俺を睨みつけて帰っていった。ヤツらは、何がそんなに気に食わないのか。
「あんな奴ら、気にしなくていいわ」とホイットが言った。
奴らといれ替わりに、初老の男と、若い女性がやってきた。ホイットは、いつの間にか、俺の隣から離れ、元の壁際に戻っていた。初老の男が口を開いた。
「どうしたんだ、ホイット」
「いつものこと。デートを断ったら、逆恨みされたという感じ」
「だから、君もそろそろ、パーティーを組んではどうかと思うよ。こんな田舎じゃ君の能力とバランスが取れないだろうが、いつまでも助っ人では、周りも納得しないんだろう」
「ええ、だから、私もパーティーを組むことにしたの」
それまで初老の後ろに控えていた若い女が驚きの声を上げた。
「ええ、ほんとですか」
「ええ、そうよ、コンソラータ。だから、パーティー申請をしてほしいの。いいわよね、えええと、そういえば名前まだ聞いてなかった」
ホイットが俺を見つめた。俺は、ベットの上の革袋を手に取り、ケンと名乗った。コンソラータは、嬉しそうに「大変だ、大変だ」とつぶやきながら、どこかに消えた。初老の男が俺をじっと睨んだ。
「ほんとに良いのか。いくら、いつでも解散は出来るといっても、悪いが君とはバランスが取れるようにはみえないが」
「しつこいよ、ウーゴ」
俺は、失礼だな、と心の中で突っ込む。
「わかった、その点に関してギルド長が文句を言う立場じゃない。しかし、これまで通り高ランクの仕事は受けられないぞ」
「問題ない」
先ほどの若い女が、書類の束を抱えて戻ってきた。
「手続きですよね」
「そうだ、頼むよ」
コンソラータは、「こちらへ、どうぞ」と俺とホイットを先導した。ときどき後ろを振り返り、話し始めた。
「パーティー名はどうされますか」
「ケンが決めて」
しばらく考えて「バルサ」と答えた。
「どういう意味?」
「最高に、強くかっこいい、という意味。わかりにくい?」
「問題ない」
コンソラータが、「ここがギルドの正式な受付場所よ」と言った。そこは、ビアホールのような開けた空間だった。壁に壁紙のように貼られている求人票のようなものを見つめる者や、食事や酒を飲み食いしながら、情報交換をする者たちなどで溢れていた。
俺が、ホイットとともに受付台の前に立つと、一瞬、全ての会話がとまった。振り返りホールを見ると、小さい声でコソコソとみんなが話し始めた。だいぶ居心地が悪い。
机越しに立っているコンソラータが俺に微笑んだ。
「あまり気になさらないほうが良いと思います。みなさん、ホイットさんに夢中だったんです。それがある日突然、どこぞの馬の骨かもわからない男にかっさらわれたというんでヤキモチをやいているんです」
どこぞの馬の骨に、面と向かってどこぞの馬の骨とか言わないでほしいものだ。
「コンソラータ。ケンは、そういう相手じゃない。パーティーのメンバーだ」
コンソラータは、ホイットの話を無視して俺に語りかけてきた。
「私は、ホイットさんが選んだ方ですので、心配しておりませんが、その白い服だけは、変えた方がよろしいかと思います」
「おお、そうだ。聞こうと思っていたところなんだ。どうして、この白衣が駄目なんだ」
「ああ、やはり知らないんですね。白は白き獣を連想させます。大変多くの冒険者たちが白き獣たちと戦い命をなくします。だから冒険者にとって白は大変不吉な色なのです」
「コンソラータ、手がお留守だぞ」
「すみません。私も、ホイットさんのパートナーがあまりに平凡な方だったので、動揺しているのかもしれませんね」
なんか、いちいち気に障るが、ここで口を挟んで仕事が遅れてしまうより早く手続きを終わらせて街を出たほうが良いだろう。
自意識過剰、もしくは被害妄想かもしれないが、さっきから俺を見るみんなの視線に敵意や悪意があるような気がしてしようがなかった。
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