第19話 冒険者ギルド
誰かが、俺の頬をやさしく触れていた。その手がとても暖かく心地よい。俺は手を伸ばして頬に手を伸ばした。
「キャ」
女性の声だ。
目を開くと目の前に、顔を赤らめたホイットが俺を覗き込んでいた。俺は、ベットから飛び起きた。どうやら、俺は、ホイットに膝枕をされながらベットで寝ていたようだ。周りを見回すと、見知らぬ部屋の中に二人きりだった。
「ここは、どこ」
「ここは、冒険者ギルドの建物内。飯屋の前であなたが伸びていたので、空いている部屋を借りて運んだ。私の手をお触りする前に、お礼ぐらい言ったらどうだ」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
ホイットもベッドから降りて、ドアの近くの壁に寄りかかった。
「すごい勢いで、傷が治っていったけど、痛みはない?」
俺は、殴られたあたりを触ってみたが、腫れや傷などはないようだ。痛みもない。自動治癒機能のおかげに違いない。
「大丈夫。どうして助けてくれた」
「あなたの仲間に入れてくれるのだろう。それなら助けるのは当たり前だ。ありがとう」
「いやいや、待って。まだ仲間にするとは決めてない」
「なんでだ。悪い話じゃないだろう。私を仲間にしたら旅が楽になるぞ。各地の冒険者ギルドにも顔がそれなりに効く。この前のことを怒っているのは理解している。これは、ほんのお詫びだ」
ホイットがは、突然、腰にぶらさげていた革袋をこちらに放り投げた。袋は、ベッドの上に落ちた。ずっしりと重そうな、金属同士がぶつかる音がした。
「あなたに関するこの前の調査案件の報酬と、今すぐ手にできる私の預金の全部だ」
これに手を出したら、仲間にすること決定だな、と思いながら、袋を見つめた。ロラにお願いすれば、カネは、ポイントに交換出来ることは判明しているから、カネはポイントで、そして俺の命と等価だ。今日の稼ぎ以上のカネが目の前にあると思うと、喉から手が出るほど欲しい。
町の雰囲気からして、俺の訪問は喜ばれていないようだ。他人から話を聞いてホイットの事を探るのは、難しいなら、本人と直接、話をして真偽を確かめる他ない。ただし、俺にそんな能力があるのかが、問題だが。やるしかない。
「どうして、俺の仲間になりたいのか、具体的な話しを聞きたい」
「そういえば話してなかった。実は私、記憶喪失なんだ。どこで生まれたのか、どんな両親なのか、どんな子供だったのか、どういう生活を送っていたのか、まったく記憶がない」
「どうして」
「さあ。気がついた時には、冒険者ギルドで冒険者として働いていた」
「昔を知っている仲間は?」
「いない」
「記憶が無いことに不便は感じていなかったが、もちろんずっと気にはなっていた。ところが、ある夜、決して夢を見ない私が、夢を見た。不思議な夢だった。もちろん、あの依頼を受ける前だが、その夢にお前と私が出てきたんだ。見知らぬ場所だった。だから、マルボビル草原で魔道具を動かしているお前を見つけてびっくりした。あの夢は神の啓示だったと思った。あの夢には、必ず何か意味がある。そして直感だが、私の記憶と関連があると思った。だから死んでもついていこうとね、思ったわけだ」
部屋の外で誰かが言い争う声が聞こえてきた。ドアが乱暴に開いた。俺に言いがかりをつけてきたあのスキンヘッドの三人衆が立っていた。部屋の入口近くに立っていたホイットがにらみつけている。
「おい、ホイット、さっき、ギルド長から聞いたが、俺たちトリリオンの誘いを蹴って、こんなガキとパーティーを組むらしいじゃあねえか」
ホイットは、すたすたと俺の隣にやってきて腕をとって体を密着してきた。ふくよかな胸の感触が伝わってきた。
「だから、取り込み中なの。出ていってくれる」
「俺たちを虚仮にしておいて、ああ、そうですかと言うと思ったか」
「何度誘われても、あなた達とはパーティーは組まない」
小走りで近づいてくる足音がして、野太い男性の声が言った。
「おい、お前たち何事だ」
「ちぇ、面倒くさいのがやってきやがった」
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