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第18話 港町グランツル

 果たしてホイットは仲間として信用できるのか、否か? 俺は、今日、その証拠と結論を得るため、港町に潜入することにした。


 断崖を降りる道は、昨夜遅く発見することができていた。断崖を降り、町に向かう途中の森に軽バンを停めて朝を待つことにした。


 日の出前に起床すると、運転席に座った。ホイットの忠告に従うなら、軽バンを置いて歩いて街に向かうべきだろう。この点は、ホイットに従ってみよう。ただし丸腰というわけにはいかない。できるだけの準備は、必要だ。


 ロラはレンタルできる装備は全部もっていくべきだと主張したが、そんなことをしたらいくらポイントが掛かるのかわからない。それでなくても、今日は多分、仕事はできない。つまり収入ゼロなのだ。


 俺は、ロラの説明を参考に、末端ゴーグル(2MP/日)、完全白衣(3MP/日)と雷神ハンマー(2MP/日)をレンタルすることにした。流石に猫耳ニットは人前では恥ずかしいし、必要ないだろうと判断した。


 完全白衣は、何をもって完全するかは議論の余地はあるが、防寒防水防炎防雷防刃自動治癒付き、だそうだ。見た目は、糊のパリッと効いた、真っ白な白衣だ。前合わせは、ジッパーになっていてスッキリしたデザインだが、なんせ真っ白だから悪目立ちしないか心配だ。それでも自動治癒機能は、大変魅力的で着ていくことに決めた。


 雷神ハンマーの見た目は、ホームセンターで買ったトンカチそのままだった。インパクトの瞬間に雷撃を放ってくれるらしい。いまいち、使いこなせるか不安だが、レンタルのポイントから察するにすごい攻撃力を得られるに違いない。


 ホイットに会う前にやるべきことは、2つある。一つ目は、街の様子を掴んでおくことだ。末端ゴーグルは、遠くはなれても軽バンの機能、ロラとの会話を含む、を使える多目的情報端末だ。周辺の情報、気温、湿度、地形、地図、レーダー、天気予報まで表示してくれるらしい。なによりも便利なのは、俺が歩いた範囲が、地図として記録される。だから街の外周をぐるっと一筆書きで一周すれば、街の詳しい地図を簡単にしかも短時間で入手できるらしく、使ってみる価値は大きい。


 問題があるとすれば、地図を得たとしても、末社を設置するほどの成果にはならないということだ。もちろん街の大きさにもよるが、遠目から見た感じ、末社を設置したら大赤字だろう。


 ホイットに会う前にやることの二つ目は、ホイットの発言内容が裏をとることだ。できればホイットの素性を知りたい。どうして俺の仲間になりたいと言い出したのかも知りたいところだ。カネを出しても俺の仲間になりたいなんて正気じゃない。絶対に、裏があるはずだ。逆に、それがクリアーになれば、仲間にしてもいいということだ。


 ロラがポイントをこちらの世界の通貨に換金してくれるというので、1000ポイントをこの街で使える通貨に交換してもらった。この街の物価は知らないが、金貨が一枚まじっていたから何かしら飲み食いぐらいはできるだろう。


 ロラの指示に従い、軽バンのキーを抜いた。キーの鍵ロックマークを押すと軽バンが消えた。鍵解除マークを押すと軽バンが現れた。ロラの説明では、このキーのある場所に軽バンは現れてくれるらしい。さらに嬉しいことに、この機能にはポイントはかからないとのことだ。ああ、無料フリーって素晴らしい。ただし、キーを無くすと詰むらしい。だから、この鍵だけは何があろうともなくしてはいけない。


 軽バンが目の前から消えた。この世界に来てはじめて、軽バンに頼らず進むことになる。その不安を煽るように左足が痛んだ。どこが痛いのか判断できない痛みだ。気分が萎える。でも行かなければ何も始まらない。俺は、痛みをこらえ、びっこを引きながら街に向かって歩みを進めた。


 30分ほど歩いて、港町グランツルに入った。左足の痛みもそのころには治まっていた。沖には大小の船が帆を上げていた。大きな漁師町という雰囲気だ。街の中では石畳の道が整備されていて、人々は馬車に荷物を積んで頻繁に行き来していた。海と陸における交通、物流の中継地点でもあるようだ。船は、帆船。荷物は荷馬車による輸送だ。たしかにこの文明レベルに軽バンで乗り入れたら大事になるだろう。さっさと街の地図を得よう。俺は速歩きで街の縁を歩いた。


 すれ違う人がいちいち俺を見ては、軽蔑か、あるいは嫌悪の表情を浮かべていた。明らかに目線をそらす者もいる。子どもたちは遠巻きに、俺を指さしていた。かなり目立っているらしい。恥ずかしい。


 そんなに変な格好だろうか。すれ違う人達の多くは、みんなくたびれた、薄汚れた服を着ていた。コートの類いを俺と同じように羽織っている人もいるが、真っ白なシワの一つない服を着ている人は一人もいない。この白衣が目立っていることは間違いないだろう。でも仕方ないじゃないか、少し汚そうと思って土の上で白衣を踏んづけてみたが、防塵機能もついているようで全く汚れなかったのだから。


 メガネをかけている者はいたが、ゴーグルをつけている者はいなかった。ゴーグルが目立っている可能性も否定できない。いずれにせよ、他人は他人と腹をくくって、今、やるべきことに集中しよう。


 スマホでも持っていれば、街の人にナオの写真を見せて尋ねてまわることも可能だが、外見上の特徴を口で説明して見つけ出そうとする手法は時間と手間がかかり、仕事をしなければならない身の上としては、絶望的な手法のように思えた。俺は、立ち止まり左ヒザをさすった。湿った風にのって磯の香りが鼻をかすめた。


 ナオには悪いと思ったが、食欲がムックと鎌首をもたげた。魚が食べたい。できれば刺身、醤油とワサビだ。


 神域拡大に伴って食事メニューは少しずつ充実していたが、まだ刺し身や煮付けは無かった。地図が出来上がったら定食屋を探そう。街の大きさから推測して何軒も飯屋はあるだろう。さらに2時間ほど歩いて、街の地図が完成した。


 街の中で一番大きなメインの通りを港に向かって歩く。港をちらっと見た感じでは、漁船が一番多そうだ。ただ、大型船が停泊できる所もあるようで、一隻の豪華な帆船と、数隻の貨物船も停泊していた。冒険者ギルドがある地区は、街の北側である。ホイット自身、もしくは、事情を知っている知り合いがいる可能性もあるので、その周辺にはまだ近づかないことにした。


 まずは、飯屋を探そう。漁港、港町の朝は早い。まだ午前中だが酒を出す店だってあるだろう。そこなら、ついでに情報収集もできる可能性もある。


 俺は、街の中で一番大きな飯屋に入ろうと入口の扉に手をかけた瞬間、呼び止められた。


「おい、テメエ、その縁起でもねえ面で店に入るなよ」


 恐る恐る振り返ると、3人のスキンヘッドの男たちが、腕組みをして立っていた。三人とも同じ顔に見えるが、パンツの色が違う。紺、黒、カーキーだ。俺に声をかけたのは、紺のハゲだった。


 俺は、左足の太ももをさすりながら「なんでしょうか」と言った。


「聞こえなかったのか」


「だから、何?」


「そんないかれた格好で俺たちの視界に入るな。ムカついてしょうがねえ。痛い目に会いたくねえなら、今すぐ走ってこの街から消えろ」


 どうして、こんなにアウェーなんだ。そんなに、なにが気に食わない。争い事は全然、望まないが、最低限の仕事はしなければ、ここに来た意味がない。


「わかった。気に入らないのはわかった。でもちょっと聞きたいんだが、ホイットという女を知っているか」


 さっと男たちの顔色が険しいものに変わった。こっちも地雷だったのか。とりあえず、街を出て、作戦を練り直そう。俺は、ハゲ男たちの返事を待たず、横をすり抜けようとした。


 瞬間。ぐっと肩を掴まれた。ここは、強気で行かなければ、睨みつけようと振り返る。途端、目の前で火花が散り、真っ暗になった。

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