第17話 街の灯り
ホイットの提案を聞いてから数日が経った。左足は、ずっとジンジンとしびれたままだ。ホイットの提案を受け入れるか判断はつかないままだが、仲間にしたいという気持ちが60%、やめようという気持ちが40%という状態で日数だけが過ぎていた。
それでも、神域を確保しながら港町グランツルがあると言っていた南西方向をめざしていた。相変わらず広がる草原しか見えず、人恋しい気分になることもある。人間関係に煩わされず、自分のペースで仕事ができるので苦痛ではないが、流石に話相手がロラだけでは、つまらない。ラジオも使えないし、生活には潤いがないなと、ふとした瞬間に思うのだ。
思い悩むことはあるものの生活にはリズムが出てきた。日の出とともにロラに起こしてもらい一日がはじまる。そして暗くなるまえに、ワンルームに引き上げる。その間は、ひたすらお仕事だ。1日6社とノルマを決めた。それぐらいで、だいたい9時間労働となる。
宅配業務をしていたときは、それ以上に働いていたので、体力的にはもっと働くことも可能だったが、日が暮れてから末社を埋める作業は少し危険が高まるのでやらないことにした。
1日のノルマ達成のため、昼間は休憩を殆ど取らない。食事は運転しながらだが、トイレはレンタルしているワンルームを使う。公衆トイレやコンビニを探さなくて良いので便利だ。効率と安全のため、末社を埋めるために万能スコップと猫耳ニットキャップは最低限レンタルすることにしていた。
猫耳ニットキャップは、白猫モデルというらしく大の男がかぶるには抵抗があるが、どうせだれも見ていない。それよりも気配察知機能がすぐれものだ。実際、再びグラスジャッカルに襲われそうになったとき、その足音をいち早く察知し、危険を回避してからは、もう手放せなくなっていた。
ノルマを達成したらワンルームに戻り、まずは風呂、次いでビール、食事、そしてビデオを見て寝落ちだ。
神威格闘術は、間相、受け、縦拳、正拳、二連拳、貫手、一本突き、暗壁衝を見終えたところだ。間相とは、観相という技の初心者用の到達点であり、相手との距離を正確に判断する技だという。練習相手がいないからビデオの効果は実感できない。
受けとは、防御技の初心者の到達点で、相手の技をオーラを纏い受けきる技らしい。受けきるといっても相手のオーラの質量、タイミングによって受けきれるか、それともダメージをもらうかが決まるらしい。残念ながら、これも練習相手がいないので確認できていない。
縦拳、正拳、二連拳、貫手、一本突き、暗壁衝は、すべて突き技に分類される打撃技だ。突き技は、おおよそ技の出が速く、技を出した後のスキが少ないという。ただし、相手のオーラに影響を受ける割合が高いらしい。これらは、相手がいなくても確認できる。結果、手順さえ間違わなければ、すくなくと胴着を着ている女性と同じ動きは一晩でマスターできていた。翌朝、起きるとなぜか筋肉痛になっていたりしている。まるで夜中に眠りながら筋トレでもしているみたいだ。
仕事は、たいへん満足のいくものだ。真面目に働けば働くほどポイントは貯まり、生活は充実していくのも気に入った。そうは言っても心配が無いわけではない。生活が安定してくると、一日に何度か、ふと思い出すのは、ナオのことだ。黒ずくめのあの野郎たち。
唯一覚えているのは、奴らの服装と、俺を殺した男の声と、「お迎えにあがりました」というセリフのみ。やはり、ナオを探し出すためには、仲間は必要かもしれない。なぜなら、世界はアホみたいに広く、俺は、この世界のことを何にも知らない。ネットもテレビも新聞さえもないこの生活で、情報収集に長けた人材は必須のように日増しに感じられた。
もし本当に仲間になってくれるのなら、シーカーランク第3位、今の所自称だが、その実力は相当なものだろう。信用するに足る、証拠が欲しい。
そうか。俺は証拠がほしかったのかと納得できたとき、今度は左足全体がチクチクと痛みだした。
「クソ。なんなんだ、この左足は」
どこが痛いのか自分でもわからない。左足全体が痛いような気もするし、太ももやふくらはぎ、関節が傷んでいるようにも感じる。
「大丈夫か」
ロラが声をかけてきた。このごろ少しロラの当たりが柔らかくなってきた。
「大丈夫。いつものことだから。これがこいつのいつものやり方なんだ。この痛みには慣れている」
「左足だけ呪われてっんのか」
「そう。確かに呪われている。ずっと昔からね。でも、大丈夫。呪いの解き方もわかっている」
「ほお、解呪、出来んだ」
「そんな大したもんじゃない。ただ、考える。問題はなんでもいい。人生のこととか、妹のこととか、ホイットに会うべきかどうかとか、考える。ただし、鷲になったように、俯瞰して考えるんだ。そうすると、いつの間にか、痛みは引いている。まあ、気をそらすっていうやつだ」
「へえ、そんなんでねえ」
別に、信用してくれなくていい。俺は、運転席で姿勢をただし、目をつむり、呼吸を整えた。今回は、ホイットの話の信憑性に関して考えてみよう。
あの話をしていたときの、ホイットの顔、態度、声、内容、雰囲気、状況などを思い浮かべながら考える。堂々巡りだって、構いやしない。今は痛みから、目をそらすことができればいい。
その日の夕方、断崖の上に軽バンを停めた。俺が走り回っていた草原が巨大な大地の上だったことを知った。遠く断崖の下で人工物の灯りをともっていた。きっとあれがホイットが言っていた街の灯りだ。俺は、光に誘われる蛾のように街の光に吸い寄せられていった。
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縦拳所謂、ジャブ
威力は小さめ
気の影響大
正拳空手の正拳突き
威力はある
ジャブよりはスキができやすい
気の影響小
2連拳左右のフック的突き
一打目は、縦拳と同じ性質
二打目は、正拳と同じ性質
ただし、一打目、二打目とも威力は落ちる
貫手空手の貫手
気の切断、貫通が可能
失敗時、指に大ダメージを負う
一本突き人差し指での突き
急所突き
失敗時、指に大ダメージを負う
暗壁衝カウンター
相手の踏み込みに突きを合わせる
失敗時は、大ダメージを負う
初心者は、成功時もある程度のダメージ
を負ってしまう
間相相手との間合いを知る。
効果は、一定時間持続する
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