第16話 懇願
俺は、できるだけ迷惑そうな顔を作り、逆さ女を見た。
「あたしをあなたの仲間にしてほしい」
ええ!
どうしてお前みたいな女を味方にする必要がある。お前は、俺を殺そうとしたんだぞ。これは、悪質だ。俺は、はっきり言うために軽バンを止めた。運転席のマドを数センチだけ下げた。
「断る」
美女が天井から降りて、運転席のドアの前で片膝をついて、頭をたれた。
「もう二度と傷つけないと誓う」
「意味がわかんない」
「断る。俺に何のメリットもない」
「メリットならある。私が仲間になれば、冒険者ギルドから一目も二目も置かれる。世界の地図を作るのだろう。冒険者ギルドに顔が利くあたしが力になれば、旅もしやすい。カネもそこそこ持っている」
カネか。たしかに、それは魅力的だ。ポイントは持っているが、この世界のカネはもっていない。
「もし仲間にしてくれるなら、あたしが持っている全財産をあなたにあげよう」
これは、告白か? 全財産をくれるというのは、告白で間違いないのではないか。はっきり言って、ちょっと嬉しいぞ。だが、待て。昨日、俺を殺そうとした人間の言うことを真に受けるのは、どうかしている。これが噂のハニートラップというものかもしれない。
「俺の仲間になって、あんたに何のメリットがあるんだ」
「本当にあなたが、この世界の地図を作るってうなら、私もそれを手伝いたい。あなたの目となり耳となろう。場合によっては盾や剣になてもよい。自分で言うのもなんだが、腕は良い。確かに、昨日の今日で、すぐには信じてもらないだろう。ここから南西にあるグランツルという港街で待っている。街に来てくれれば、今回の依頼の内容もわかるだろうし、賞金もあなたに全部上げる。あっ、街に来る時は、そのケイバンは、おいてきたほうがいい。まず間違いなく捕まるから」
そう言うと、ホイットは、視界から一瞬で消えた。まるで映画に出てくる忍者だ。もしも、俺をはじめから殺そうとしていたなら、簡単に殺せただろうことは、理解できた。そこまで考えが至れば、ホイットの言っていることはまんざら嘘ではないのだろうとは思う。
俺は再び、軽バンのアクセルを踏み、仕事に戻ることにした。それからは、一日中、ホイットとホイットの申し出を考えながら仕事をこなした。この仕事に仲間は必要だろうか。いらないような気がする。これまでのところ神域を増やすだけなら十分一人でこなせる。
ただ、他人に親切を施してポイントを稼ぐという意味では、必要になるかもしれない。一人ではできないことも二人なら可能という案件も存在するだろう。それに街があるなら、積極的に親切ポイントを稼ぎに行きたいものだ。親切で得たポイントは基本的になくならないからな。
「ねえ、ロラさん。もしもあのホイットを仲間にしたら、ポイントつくかな」
「仲間にするってことは、親切とは少し違うべ。でも、困っている人を助けるなら、親切だっぺ」
左足がしびれだした。両の手のひらで太ももをマッサージする。問題は、ホイットが仲間として信頼できるかということだ。
***
(神威格闘術二巻目は、歩行を学びます。初心者は、静歩を到達点とします。)
胴着をきた女性が現れた。見たことのない人だ。テレビに詳しいわけではないが、雰囲気、たたずまいからして、なぜか普通の人には見えなかった。
ロラか、女神か。
胴着をきた女性は、練気言祝を行い、歩いた。ただ、それだけだ。
(どんな場所でも、足音はでません。相手との間合いを取るのに役立てましょう。なお、この効果は、ある程度持続します)
ビデオは、コンセントでも抜けてしまったかのようにブラックアウトし、猛烈な眠気が昨日と同様に襲ってきた。今日はその眠気にさからわず身を任せた。
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