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第15話 ホイット

 翌日、快適に目覚めた俺は、連鎖効果を得るために、あの女と遭遇した場所にむけて出発した。連鎖効果を失うのは、得策ではない。もったいない。あの女だって、もうあの場所には、いないはずだ。


 天気は、晴れ。微風。気温は暑くもなく、寒くもない。窓を開けて走るには、ちょうどいい天候だ。それにしても口惜しい。こんな遠くまで逃げてきてしまった。昨日は、突然襲われたことで、気が動転していたのだろう。この今の移動時間さえ、時間のロス、ガス代のロスだ。


「何イライラしてんだ、このバカ野郎」


「ちょっと時間がもったいないなと」


「身から出た錆だべ」


 まあ確かにそうだ。どうせ目的地までは一本道、空でも見ながら行こう。少し気が楽になったのか昨夜のビデオの内容が頭に浮かんだ。練気言祝。


「『神威格闘術を学んだあなたに敵はいません』か。呪文難しかったな。たしか、カカン イーコシュ ドシャク ムソウシン。ん?」


 驚いたことに昨夜のビデオの内容が、脳内で鮮明に再生できる。絶望的と思っていた呪文、いや練気言祝もすらすら出てくる。すばらしい。これが睡眠学習というものか。


 あんがい見ただけでいけるのかもしれない。ビデオの二巻目の内容を想像し、練気祝言をとなえながら、昨日の場所まで戻ってきた。


 左足がムズムズした。あの女が待っていた。野宿したのか。落ち着け、俺。軽バンを降りる必要はない。外に出なければ、ほぼほぼ俺は安全だと自分に言い聞かせる。あらかじめ考えていたとおり、無視してやりすごせばいい。相手にしては駄目だ。


 俺は、女との200メートル以上の距離をとりながら、仕事に取り掛かった。といっても車を走らせるだけだが。


 ところが、ちょっと女から目を離したスキに、女の姿が消えていた。左右のサイドミラーを見る。いない。草が生い茂っている地面に伏せたのかもしれない。好奇心を発揮して近寄るのは愚策だ。


 俺は、すこしスピードを上げて、ここから離れようとハンドルを切った。その時、軽バンの天井に何かが乗っかる音がした。


 まさか、飛び乗ったのか。どうやって。確かに速度はそんなに出していなかったが、軽バンの死角をついて軽バンに近寄り、走行している軽バンの屋根の上に飛び乗れるものなのか。もしそうなら人間業じゃない。窓を開けて、天井を確認したい気持ちをぐっと抑えた。


 左足に、一回だけズキーンと痛みが走った。マッサージをする。困ったことになった。これでは、末社を埋めるために外にでられない。どうやって、末社を埋めようか。


 女を天上に乗せたまま、軽バンを走らせた。軽バンを停止させたところで、問題は解決しないなら、すこしでも神域拡大に向けて行動を続けるべきだ。その間に、女の対応を考えよう。


 ナビ画面で神域の形を確認し、再び正面を向いた。突然、フロントガラスに逆さになった女の顔が現れた。無表情で俺をじっと睨んでいた。


 そんなに睨まれるほど俺は、悪いことを俺はしているのか。否、そんなことよりも、今、前が見えない。遮るもののない草原だとしても、フロントガラスが見えない状態で軽バンを運転したくない。


 俺は、一瞬だけスピードを上げ、ハンドルを急に切って振り落とそうかとおもったが、今の時速は50キロ。この速度で落ちたらタダは済まないだろう。


 俺は、女に向かって「しつこいぞ」と怒鳴った。


「昨日は、悪かった。それに、言い訳だが、あまりにびっくりしすぎてた」


「毒を塗ったナイフで刺しておいて、許せるわけ無いだろう」


「毒は、嘘だ」


 え?


「解毒剤は持ってない。これは治療用のポーションだ。本気で殺そうとしたわけじゃない」


 逆さ女は、液体の入った瓶を手に持って振ってみせた。


「ロラさん、信用できると思う」


「それは、あたいの仕事じゃねえべ」


 速度を30キロほどに落とした。


「あんたは、何者だ」


 逆さ女が、目元だけ微笑んで見せた。


「私は、シーカーのホイット。これでもシーカーランク第3位だ」


 俺は、小声でロラに尋ねた。


「シーカーってなに?」


「探索者だ。冒険者ギルドのメンバーだな」


 いつの間にかホイットの手には、会社の社員証のようなものを手にしていた。ドラマでよく刑事が身分を証明するために警察手帳を取り出すようなしぐさだった。


「声の調子からすると彼女の言っていることはホントみたいだ。世界3位というのはすげえよ。彼女きっと有名人だべ」


 有名人だからって、善良とは限らない。信用できるわけでもない。


「何が目的だ」


「冒険者ギルドから、マルボビル草原に聞き慣れない不快な音が何日も鳴っていて、同時期に不審なモノが現れたというから、その情報収集を頼むという依頼が上がってきたんだ。つまり、あなたが何者で、何をしているのか、敵なのかどうなのか探るように依頼が発生しているんだ」


 不快な音というのは、クラクションの音だろう。俺は、何日もあの状態でクラクションを鳴らし続けたのか。


「だったら、そう言えばいいだろう。いきなり、あれは」


 昨日の怒りと恐怖がこみ上げてきて、言葉に詰まった。


「だから、こうやって謝っている。それに、私もちょっと、あれでね」


「何があれだ。それが、謝罪している態度か?」


「このチャンスを逃したら、あなたは逃げてしまう。だから仕方ないだろう」


「昨日も話したとおり、俺は地図を作っているだけだ。あんたらに興味もないし、危害を加えるつもりもない。ほっといてくれ」


「わかった、ギルドにはそのように報告する。それで図々しいようだが、実は頼みがある」



最後まで読んでいただきありがとうございました。


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