第14話 神威格闘術
まるで、俺と会話しているかのようなドンピシャな内容のナレーションだ。ビデオのナレーションが少し怒っているように感じる
(まずは、この講座の構成から説明いたします。この講座は、5つの練度、25の技、10の属性で構成されております。5つの練度とは、初級、上級、師範、達人、仙人です。初級の到達目標は、気を纏わぬ者、訓練を受けていない者、防具を身につけていない者を無力化することです)
ロラさんの説明では、町のチンピラ程度ということだったが、思った以上に使えそうだ。
(上級は、初心者を、師範は、上級者を、達人は、師範を、仙人は、達人を無効化できることを目標とします。練度によって、使える気の量が異なり、それによって、一度に繰り出せる技の数と質が決まります。具体的に技の説明に移りましょう。神威格闘術は、基本技4種、抜き技6種、打ち技5種、蹴り技5種、当て技2種、投げ技2種、絞め技1種からなります。寝技、関節技はなく、立ち技主体なのも特徴としてあげられます)
ゲームや映画じゃないんだ、実戦で使えるのか。
(なぜなら、神威格闘術は、一対多を想定されて編み出された格闘術だからです。寝技に持ち込まれる様な柔な状態は想定していない)
おもわぬところで、力強い断定口調だ。つまり相手にグラウンダーに持ち込まれるまえに相手を無力化するということか。それは、かなり強力な技を相手にかけることになる。
ボクシングの試合でも、空手の試合でも、一撃で相手を無力化するには、よほどの実力差が必要だ。バーリトゥードなどの所謂本格的格闘では、相手を地面に引き倒してから、有利なポジションをとって関節技や絞め技を狙うのが、王道パターンだ。
(しかし、少しも心配する必要は少しもありません。なぜなら、多くの格闘家、兵士は、気を知ることがありません。知っていたとしてもその知識は中途半端、もしくは、不正確な情報に基づいており、不完全なものだからです)
すごい自信だ。まあ、女神様監修なんだから、嘘はないのだろう。だが、少しずつ洗脳されていくようで怖い。
(神威格闘術を学んだあなたに敵はいません)
ここまでくると、怪しさしかない。口からこぼれそうになった批判めいた言葉をぐっと飲み込む。
(属性の説明は、上級者を終了したときに行います。さっそく初心者コースをはじめましょう)
いよいよだ。さあ、どんな訓練をしろというのか。
(初心者の到達点を有効打率、有効打威力、最高連技数、気量の観点からまとめてみましょう。有効打率とは、有効打が発生する確率で、初心者は約20%をめざします。有効打威力は、有効打が出たときの威力で、さきほど説明したとおり、気を纏わぬ者、訓練を受けていない者、防具を身につけてない者を無力化します。最高連技数は、一度の練気言祝で繰り出せる技の最高数で、3連技を目指します。気量は、身に纏える気の量です。初心者は、まず気を纏う感覚を身につけることからはじまります)
気を纏うとか、有効打率を上げるとか、一晩ビデオを見ただけでマスターできるとはとても思えない。これは、どうやら、娯楽ビデオとして楽しむのがいいようだ。
(それでは、このビデオの最後に、すべての神威格闘術の技の起点となる、練気言祝について学びましょう)
ベットの上であぐらをかき、背中を壁に寄っかかった。
(練気言祝とは、体内で気を発生させ、これを気を練るとも言いますが、体に纏う段階まで進める技です。初心者は、基本言祝三唱を行います)
カカン イーコシュ ドシャク ムソウシン
カカン イーコシュ ドシャク ムソウシン
カカン イーコシュ ドシャク ムソウシン
まったく呪文だ。どんな意味があるのかさえわからん。覚えられる訳がない。ああ、はやくもこれで落第決定だな。
ビデオは突然黒い画面に変わり終了した。エンドロールもスタッフロールも無しとは驚いた。
テレビを消そうと、背中を壁から離した瞬間、唐突に、しかも急激な眠気が襲ってきた。眠気に抵抗しようと頬をつねってみるが、もはや痛みも感じなかった。このビデオには、強力な睡眠剤の効果もあるらしく、深い眠りに落ちていった。
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