第105話 レオダニスの元へ
ホイットとアガットには散弾を使い放題使って良いとは言ったが、俺はその分、節約だ。どっちみち属性持ちにショットガンはほぼ効かない。露払いのようで申し訳ないが、ホイットとアガットの後ろをついていく。
突然、ホイットとアガットの乗った一輪バギーが目の前から消えた。目の前に、獣人型が五体ほど現れた。二足歩行の白き獣で、頭部は犬を連想させる。両手の爪が異常に長く伸びていて、人狼型という感じだ。
「がんばれ、フラン。死ぬなよケンちゃん」
アガットの元気な声が、末端ゴーグルから聞こえてきた。
「心配無用」
挨拶代わりに散弾をお見舞いする。吹っ飛ぶと思いきや、その場に踏みとどまった。散弾の弾が宙で止まっている。属性持ちか。
透明な壁、バリア?
ここまできて、引き返すなんてできない。突っ込むしかないが、一輪バギーが壊れたらと、一瞬頭をよぎる。フランが叫んだ。
「やります」
一輪バギーの影から、雷蛇が放たれた。一輪バギーよりも速い。まるで一輪バギーから放たれたミサイルだ。人狼型は、雷蛇に気づき横っ飛びに飛んだ。その脇を一輪バギーが駆け抜ける。いちいち相手している暇はない。振り返らず古迷宮へと進む。
まだ距離はあるが、古迷宮方向に冷気を感じた。冷気を纏った骸骨レオダニスと目があったようなきがした。ちらっと後ろを振り返る。いくら、人狼型とはいっても一輪バギーの速度には追いつかないが、それほど距離を離せる気はしなかった。
「レオダニスは、私がやります。ケン様は、人狼型をお願いします」
「大丈夫か」
「そのために、多くの命を奪いました」
「一輪バギーの運転、できるよな」
「はい」
練気言祝を唱え、飛び降りた。
カイジョウ ショウミンゲ テンガイ キョウヒジ
拳相
気相
跳歩
先頭の人狼型が、勢いを保ったまま、爪を立てて襲ってきた。
速い、が軌道は単純だ。
右、左と繰り出してくる攻撃を紙一重でかわす。
左足の調子が良い。
あとでこの攻撃を思いだして震えるのだろうが、今は不思議と恐怖を感じない。
再び右の爪が俺を襲う。
懐に飛び込む。
聖印寸勁。
ヒットとともに、吹っ飛んだ。
人狼型は、路上の石に躓いたぐらいの感じで立ち上がった。
ほぼノーダメージか。
相手のオーラは、金だ。俺の攻撃が当たる瞬間にオーラを身にまとったように見えた。つまり身体を固化したのだろう。つまりそれがバリアーの正体だ。
敵は全部で6体。フランの元に行かせるわけにはいかないし、一度に相手にするわけにもいかない。のんびり観察している暇はない。
ガカ ゲハイカイ ガブ エイリョウラン
飄歩
人狼型が、地面を這うように姿勢を低くして襲いかかってきた。相手との間合いを慎重に見極め、前に出ながら技を繰り出した。
前蹴火印
オーラを纏う前に顔面にカウンター気味にヒットした。
かかとが顔面にめり込み、顔面の骨が砕けるような音がした。
解印。
顔面が爆火し、地面に崩れ落ちた。
まず一体。
ついで追いついてきた二体が同時に襲いかかってきた。避けながら、そのうち一体の手首を掴み、動きを封じる。
と同時、膝蹴りを放つ。
接種膝蹴り《せっしゅひざけり》
相手の能力がわからないからすぐさま距離をとる。
膝蹴りがヒットした場所から、芽がでて双葉が芽吹いた。双葉はあっという間に成長し、蔓を人狼型の体に這わせはじめた。人狼型が膝から崩れ落ちた。
こいつは、あとは時間の問題だ。
残りの一体が、間合いを詰めてきた。
金剛外門
体勢を崩したところで、間合いを切る。
ジュウジン エンヨウヨ キョウセキ キソウシ
踏氷印歩
当たらないが、それでいい。
前蹴火印
さきほどの攻撃をみていたのだろう、人狼型が間合いを切った。俺も真後ろに下がり更に間合いを切る。人狼型が、不用意に間合いを詰めた。
解印
踏氷印歩の印から、氷柱が湧き上がり。人狼型の右足を凍らせた。そのスキを見逃さず、さっとふところに入る。
聖印寸勁
「ヒット」
氷漬けになった右足がポッキリ折れて、後ろに吹き飛んだ。体に刻まれた聖印が、ダメージを与え続ける。体が細かく震え続けている。やがて、震えがやみ、まったく動かなくなった。古迷宮の方をちらっとみる。黒い帳が降りている。
フランの心配をしている場合じゃないようだ。残り4体が同時に俺の目の前に現れた。いつの間にか増えてやがる。どうやら、こいつらは、一度に相手にしなければならないようだ。オーラは、左から火、地、風、氷だ。防御に徹しながら、反撃を伺うしかない。
古迷宮の方向から、悲鳴が聞こえてきた。人の発する声ではなかった。勝敗は、ついたようだ。4体の人狼型が、逃げだした。ちょっと助かった。
跳歩と飄歩をつかって悲鳴の聞こえた所へ向かう。ホイットとアガットの乗った、一輪バギーが途中で俺を抜いていった。
「お先に」
「銃口を俺に向けるな」
「アハハ、ごめん。ごめん」
古迷宮の入口付近に到着すると、フランは、地面に膝をついて呆然としていた。至る所が凍傷を負っているが、そんなことも気にならない様子だ。
ホイットは、レオダニスの骸を検査している。アガットは、レオダニスの装備品を物色していたが、頭に乗っていた冠を奪うと、その頭を蹴って俺にパスしてきた。
「こら、アガット、貴重な証拠だ、壊すな」
「何が貴重なんだよ」
「私達が、敵の大将を倒した証拠だ」
「ふうん。そんなもんかい」
「そうだ。これで、私達バルサの嫌疑や不名誉は晴らされる」
半ば放心状態のフランに話しかける。
「フラン、大丈夫か」
「簡単に言えば、ワイには才能がなかったんや。悲しいかな、スワートニヒトの力を全て引き出す才能がなかったんや」
「この娘は、影手も影囚人も裁囚までも完璧に受け継いだ。つまり、ワイの全部を受け継いだっちゅうことで、真の12勇者っていう ことや」
「満足か、ディーラー」
「ああ、満足や。思い残すことはあらへん。もう、ジブンさんらと話すこともあらへん」
「フランとの約束は守るんだろうな」
「せやな。商人同士の取引やさかい、守りまっせ」
「ところで、ワイが出てきたらどつくんやなかったんか」
「それが、フランの本当に望んだことなのか」
「そうや、ワイの知る歴史を得るための第一歩を歩み出しんやな」
「どうして、そうまでする」
「それは、これから追々わかるやろう」
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