第103話 決意
「どこに行くんだ。そんな真っ青な顔をして」
ホイットが、暗闇に向かって言った。ホイットの指先が仄かに光り、闇を追い出し、その者の顔を映し出した。それは、フランだった。
「明日の朝、話し合おうとケンと約束したんじゃないか」
「見逃してください、ホイットさん。自分がしたことの重大さは、わかっていますし。ケン様が、あのことを受け入れることができないとは、わかっています」
「ほう。それで、こんな夜中にどこに行くと言うんだ」
「言う必要はありません」
「そうか。たしかに、ケンは、正義感の強い。真っ直ぐな人間だ」
「でも、私は違う」
フランは、何を言っているのかわからないというふうな表情を浮かべた。
「私には、小さい頃の記憶がない。どこでうまれたか、誰に育てられたか、そういう記憶がない。だから、昔は、いろいろな仕事をしてきた。汚れ仕事というものも、人には言えない仕事もしてきた。村人全員を殺した経験は確かにないが」
フランの顔がこわばった。
「でも、こうやって、ケンと旅をしている」
「何が言いたいんですか」
「こういうのは、アガットの方がうまく言えそうだ。そうだろう、アガット。隠れてないで出てこい」
「ああ、そうだな。何てまどろっこしいんだ、ホイット」
フランの背後の闇から、ぬっとアガットが現れた。
「あたしも、幼い頃から泥棒呼ばわりされて生きてきた。大富豪のお嬢にはわからないだろうけど、泥水を飲む、っていう生活だ」
フランの顔が歪んだ。
「なんの罪もない村人を皆殺しにした罪は消えません」
「ああ、さすがに度肝を抜かれた。敵だとしたら恐ろしくて仕方ないだろう。でも、お嬢は違う。スキなんだろうケンちゃんのことが。だから、ケンちゃんの役にたつため、汚名をかぶったんだ」
「いいえ、そんな事ではありません。私は自分の欲望をかなえただけです」
「ここで、逃げたら、ただの大量虐殺者だ。あたしは、お嬢はそういう人間だとは思わない」
「どいてください。お二人が何ていおうと、私の罪は消えません」
「ああ、退くよ。あんな力を見せつけられたら、立ち向かう気にはならない。ちなみにこれからどうするんだ」
「それは、私の勝手です」
「かわいくない。かわいくないぜ、お嬢。ギーガーの古迷宮に行くんだろう」
フランが、アガットを睨んだ。
「村を滅ぼしたのは、ギーガーの古迷宮の宿敵を倒すためなんだろう。そのために、どうしても力が必要だった」
フランが、唇を噛んだ。
「ケンちゃんも、ずいぶん悩んでた。でも、フランが、そしてなによりもディーラーの狙いは何か、考えていた」
「そして、出した結論は、お嬢を一人にすることはできない、ということ」
フランは、アガットを睨んだが、目からは涙がこぼれ落ちた。
「ほら、ケンちゃんも、はっきり本人に言えば良いんだけど、口下手というか、女心がわからないというかな、そうだろう、ホイット」
「いきなり、私に振るな」
「だからな、フラン。ケンちゃんが言うには、罪を許すわけじゃない。けど、ディーラーを野放しにはできないし、一緒に罪を背負うしかない、って言っていたよ」
「そんなこと、できるわけないじゃないですか。馬鹿なんですか」
フランは、頬の涙を手の甲でぬぐった。
「馬鹿だよ、ケンちゃんは。まあ、そういうわけだから、一人で、このままギーガーの古迷宮に行かせるわけにはいかないんだ。これは、ケンちゃんの私達への命令だ」
「あなたたちには、私はとめられません」
「やってみてもいいけど、まあ、無理だよ。ケンちゃんが言ってた。村人達を殺したあと、お嬢に魔力はまったく残っていないって。あの技は魔力と生命力を使う。そして、力はまだ戻ってきてない。あたしだって見ればわかるよ。強がっても無駄だよ」
「それに、こんど、ディーラーが現れたら、問答無用でぶん殴るってケンは言っていた。多分、本当だと思う。フラン、今度は本当に死ぬかも」
「ケン様に、顔向けできません」
「ああ、馬鹿だね。これだからお嬢様っていう人種は嫌いだよ。いいかい、男って言うモノは、かわいく笑いかければ、イチコロなんだよ」
アガットは、ニヤッとフランに笑いかけた。
「ただし、裏切りは無しだよ。精霊が、あんたの裏切りをずっと見張っている。もしもケンちゃんを裏切るようなら、私が始末をつけるよ。私も、ケンちゃんの苦しむ姿は、スキじゃないんでね」
「そうだろう、ホイット」
「まあ、そんなところだ。ただ一言付け加えることがあるとすれば、ディーラーが現れたら、ケンよりも先にぶん殴るっていうところかな」
「プライドかい」
アガットはクスクスと笑った。
師範級基礎知識
属性と能力対応
火生命力
氷精神力
風俊敏性
地腕力
木回復力
金防御力
聖オーラ順流=オーラ力
邪オーラ逆流=反オーラ
光光性(持つ者は特殊)
闇闇性(持つ者は特殊)
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