第102話 オダツータラの塔
オダツートラは、寒村ではないが、栄えているというほどでもない。のんびりしているといえば、聞こえは良いが、時代に取り残されているとも言える。そんな街の真ん中に、円柱状の石の塔は立っていた。立ち入り禁止の表示もないが、だれも今更登ろうというモノもいない。この塔を目指して旅する者もいない。簡単にまとめれば、何もない村ということだ。
そんな村にも、神聖教会の教会はあり、一応、その塔の管理は教会がしているとと村長さんが、お茶を飲みながら教えてくれた。
有り難いことに、俺の悪行も、ここまでは届いていないらしく、教会の管理者である助祭にたずねたら、勝手に登って良いと許可が簡単に出た。
塔の高さは、ビルの三階ほどしかなく、内部の螺旋階段をのぼると、程なく塔の天辺に出た。塔の天辺から見えるのは、空と畑だけだ。遠くに海がかすかに見える。フランが天辺に到着した。じっとフランの様子をうかがう。フランと目が合ったが、フランは何も言わず目をそらした。
太陽は、傾きはじめているが、日が沈むまでには、大分時間がかかるだろう。壁に近づき下をのぞくと、村人たちは、忙しそうに仕事をしていた。今は、収穫時期らしく、畑からとれた作物を仕分けしている。
ホイットが、隣に立った。
「どうするの」
振り向くと、アガットは、腰を下ろし、どこから盗んできたのか、リンゴのような赤い果物をうまそうにかじっている。フランは、目を固く閉じ、両手を胸の前に組んで塔の中央に立っていた。
剣狂みたいに、何かに襲われることになるのだろうか。何か起こるにしても、起こるとしたら夜だろうから、それまで軽バンで仮眠を取るか。そんなことを考えているとフランが、フラフラと壁に近寄ってきた。そして床に触れた。
「もしも、死にたく無ければ、この塔から、外に出ないでください」
「おいどうしたんだ、フラン。それとも、ディーラーなのか」
声は、フランだが、もしかして、声音をつかっているのか。
「いいえ。ディーラーではありません。ただ、ディーラーの考えがわかりました」
「どういうこと」
「ディーラーは、この村を滅ぼすためにやってきたのです」
「は? なんで」
「裏切りです」
「かつてこの村からは、海がもっと近くに見えていました。この塔は、かつて灯台の役目もしていたほどです。ですから、ここから見える景色は今とは全然違うものでした。聖女様は、この塔からの眺めが大好きでした」
話し方も、話す内容もおかしい。とうとう精神に異常をきたしたのか。現実とフランの記憶とディーラーの記憶が混濁してしまったのかもしれない。
「ですが、村人は、聖女様を裏切りました。辛くも聖女様と勇者一行は難を逃れることができましたが、ディーラーは、復讐を誓い。この地に餓鬼衆を埋めたのです」
「フラン。大丈夫」
ホイットが、一歩近づいた。
「私は、正気です。ホイットさん」
アガットは、フランの背後でいつでも飛びかかれる距離に近づいていた。フランが何事かつぶやき、右足を一度大きく踏み込んだ。一瞬、空が黒くなり、すぐに元の空に戻った。
「何をした、フラン」
「私は、ディーラーと取引をしました」
「その復讐を手伝う代わりに、ディーラーの知識や力を得るという契約です」
「馬鹿なことは、よせ」
「いいえ、馬鹿なことではありません。ケン様は、女神様の使徒ですよね」
ぎょっとする。フランの言っている女神は、きっと俺を死の淵から救ってくれた存在。これまで、そのことを誰にも話したことはない。
「聖女は、この世界に降臨しませんでした。ですが、かわりに、女神の使徒をお使いくださった。それがケン様、ですよね」
俺は、返事もできず、ホイットとアガットの顔を見た。二人とも、フランの言葉を確認するかのように俺を見返していた。唇をなめた。
「そうだ。使徒という者が何者かは、知らないが、きっとフランが言う女神を俺は知っている」
「ディーラーは、それをいち早く気づいていたようです。私に交換条件を提示してきました。つまり、この村に隠した飢餓衆を発動させれば、ディーラーが知っている知識や知恵、歴史を教えるというものです」
「信じたのか」
「悩みました。悩んで悩んで、ケン様の役に立つと信じて、いいえ、これは嘘ですね。私は本当の歴史を知りたい」
アガットが、声をかけた。
「契約しちまったのか」
「はい」
「ちょっと待てよ。裏切ったのは、今ここで暮らしている村人じゃないだろう。ご先祖様だろう」
「ホイットが突然、塔の壁に近寄り、下を見た」
「いない」
「誰が」
「村人がいない」
「まさか。俺も下をのぞき見る」
さっきまで、忙しそうに仕事をしていた村人は、誰一人居なくなっていた。
達人級基礎知識
秘穴の状態
封印開く事ができない状態
密閉固く閉じた状態
閉栓一般的な閉じた状態
開放一般的な開いた状態
全開完全に開いた状態
崩壊秘穴が壊され、閉じない状態
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