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第100話 黒マネキン


 風が一瞬、強く吹き、たき火の火が消えた。


ジョウジン エンヨウヨ キョウセキ キソウシ


 夜目が利くようになった。


拳相

気相


 うっすらと黒い道が、海岸方面からこちらに伸びてきた。海から何かがやって来る。気相のおかげで俺たちの周りには、いつの間にか半透明な黒い幕で覆われていることがわかった。結界か?


 海の上を人影が歩いている。それはゆっくりと、こちらに向かってやってきった。ライトに照らし出されたそれには、目鼻はない。黒いマネキンのようにも、人型の白き獣の黒いバージョンのようにも見えた。手には柄も鍔もない黒い長剣を握っている。黒マネキンが、剣を振った。甲高い風切音がした。こいつが今夜の相手らしい。


飄歩


 相手の間合いに入る。

 黒い剣筋が、俺の首をかすめる。

 背中の毛が逆立つ。

 間合いを切る。

 黒マネキンが、追ってきた。

 間合いが切れない。

 ホイットが煙り玉を投げ入れた。


ジョウジン エンヨウヨ キョウセキ キソウシ

 

 相手は闇のオーラを纏っている。


光掌底


 黒マネキンは後ろに飛び退き避けられた。

 着地と同時に刀を突いてきた。

 長剣の刀身が伸びてくる。

 皮一枚、ギリギリでかわしていく。

 相手の突きが伸びきったところで、懐に入る。

 再び、光掌底を繰り出す。


 当たらない。

 俺の攻撃を読んでいる。


 フランが叫んだ。


「どいてください」


 フランの土のゴーレムが空か降ってきて黒マネキンを押しつぶす。

 次の瞬間、土のゴーレムの体から、黒マネキンが腕を突き出し、土の塊を突き破り出てきた。


 体勢を整える前に、すかさず間合いに入り光掌底を繰り出す。

 当たった。

 瞬間火花が散った。

 しかし、当った感触が軽い。

 黒マネキンは、空中で一回転し仰向けに倒れたが、すぐさま立ち上がった。


ジョウジン エンヨウヨ キョウセキ キソウシ


前蹴火印ぜんしゅうかいん


 黒マネキンの体に当たったが、これも全く手応えが軽い。


 実際、ダメージを受けた様子もなく、すぐさま体勢を整え斬りかかってきた。


 袈裟斬りの剣筋だ。

 長剣だ。

 間合いが近い。

 避けられない。

 懐に飛び込む。

 同時に振り下ろされる黒マネキンの腕に光掌底を打ち込む。

 火花が散り、腕をはじき飛ばした。

 黒マネキンの上体も合わせてのけぞった。


鉄山靠耀


 激しい火花が飛び散り、黒マネキンは、はじけ飛んだ。黒マネキンの手足は、あらぬ方向にねじ曲がっている。


 しかし、それでもなお、黒マネキンは、ゆっくりと立ち上がった。


 まさか、ノーダメージなのか?


秘相


 こんどは、オーラを観察してみる。黒マネキンの体内には、確かに闇のオーラ巡っているだけだ。オーラが巡る道を経絡、経絡の交わる部位を秘穴というが、まだ、その使い方までは教わっていない。どうする。


「おい、ええことを教えたろか」


「ディーラー」


「オノレには、周りを囲む結界が見えとるんやろう」


「黒い半透明の幕なら見えている」


「色や形はどうでもええ。その内側では、剣狂はほぼ無敵や。せやさかい、剣狂を結界の外に引きずり出しぃ」


 言い終わるやいなや、フランが体勢を崩し、前のめりになった。地面にぶつかる前に、抱きかかえる。


「すみません。大丈夫です」


 マネキンが刀を構えた。その動きに多少のぎこちなさはあるが、鉄山靠耀のダメージはほとんどないといって良いだろう。


「ホイット、フラン、アガット、あの大木より外に待機してくれ」


 俺は、昼間寄りかかっていた大木を指さした。ちょうど結界の外側に位置している。ホイットが、手伝うと言ったが、やんわり断る。


「大丈夫。目標ができれば、なんとなる」


 実際、相手の剣筋は見えている。油断さえしなければ、対処できる。さそって、スキをみて、鉄山靠耀で結界の外まで吹っ飛ばしてやる。万能薬を一気飲みする。あちらこちらにできたかすり傷が、塞がっていく。左足に活を入れた。



***。



 海岸線が明るくなってきた。結局、ディーラーが剣狂と呼んだ黒マネキンを幕の外に吹っ飛ばすのに、一晩かかってしまった。地面に仰向けになって、目をつむる。さっきまでの戦いが目に浮かんだ。


 剣筋は鋭かった。もしも刃に触れていれば、命はなかった。ヤツは本気で俺を殺そうとしていた。夢中だったからだろう、今さながらに手足が震えだした。フランが両手を腰に当てて、俺をのぞき込んでいる。


「まさか、ほんまに剣狂を倒すとはおもわなんだわ」


「何が目的なんだ」


「今度は、オダツートラの塔や」


「ああわかった。どこまでもお前に付き合ってやるよ」


 フランは、いきなり脱力したが、今度は、自分の力で踏みとどまった。フランは、微笑んだ。


「だんだん、コツがわかってきましたよ。いつまでも、振り回されぱなしにはなりません」


 そうは、言ってもフランの顔は蒼白だ。いつまでも、こんなことをしていたら、ほんとうにフランの精神が参ってしまう。何か、もっと良い方法はないものか。


師範級の基礎知識。


オーラ。「魔力の源泉」

秘穴。「オーラ溜まり、経路の分岐合流地点」

経絡。「秘穴から秘穴へと流れるオーラ(=魔力)の流れ道」


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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