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ヒロインとは衝突するのが掟

やっとヒロイン出せる…

カロスは奇妙な感覚に陥った。

己の顔と仮面の狭間を感じない、まるで生まれたときからそうであったかのように馴染む感覚。違和感を感じない違和感を感じたのだ。

そう感じた途端に異変がカロスを襲った。

視覚に、聴覚に、嗅覚にまるで透明な蓋をされたかのような、くぐもった感覚がしたのだ。

よく見れば、いつの間にか体にも異変が起きている。視覚は頼りにならないとは思うが、己の腕が見えないのだ。

「俺の…腕?なぜみえ…ないんだ…」

カロスの意識はそこで途絶えた。
















裏切りの迷宮、第5層

「よし、ここら辺でいいだろ」

「ふん…まぁ、この層なら条件はクリアできている。構わん。いつもと同じだ。やれ。」

そう話ながらやってきたのは重装備の剣士風な男と魔道士風な男。剣士の方は大剣、魔道市は杖と様々な小道具を身に付けている。

それを後ろから見るのは離れた村から雇われてやってきた少女、リルだ。山三つほど離れた村から荷物持ちとして雇われた。貧しい村で、危険な仕事だというのはわかっていたが、行かざるを得なかった。病ながらに畑を耕す父、家事をこなす母、幼い妹と共に暮らしていた。だが、今年の流行り病により、父は辛うじて行っていた畑仕事も出来なくなり、一家は飢え死にを待つだけであった。そこに現れたのがこの二人の男だ。聞けば、荷物持ちを探しており、高額な報酬を払うと言うので、仕事が出来るリルが雇われ、この迷宮にやってきた。武器は買えず、家から持ってきた手鎌しか持っていない。二人の男はまるでリルをいないかのように扱った。食事や役割分担の話はされるが、それ以外は二人が小声で話していてリルには会話の内容は伝わっていない。ここで行うことも荷物持ち以外に聞いていないので、何をするのかと好奇心と恐怖に揺れている。すると魔道士がいきなり「バインド」を唱えた。この魔法は対象を魔力で生成した鎖によって縛る魔法であり、派生として棘付きの鎖で縛る「ダメージバインド」や一ヶ所に集中させる「フォーカスバインド」などがある。

リルは鎖に縛られ、剣士によって担がれる。

「え?え?どうなさったんですか?モンスターですか?なぜ私を縛るんです?」

面倒だというオーラを放ちながら魔道士が言う

「これだからガキは…お前は今から生き餌となるのだ。せいぜい長生きしろ。」そう告げた

「そんな!だって荷物持ちの仕事だって言ってたじゃないですか!そんなことしたらお父さんやお母さんが騎士団に報告する筈です!解放してください!」

「はぁ…理解の遅いガキが。まさかなんの根回しもせずにこんなことをすると?騎士団はもちろん今からやるのは王都でも知られてるような方法さ。まぁ貴族やそれに近いお抱え冒険者だけだが。お前の親も金で黙らせてやるさ。お前一人で二年は暮らせる金が入るんだ。泣いて喜んでるだろうよ。」

リルは愕然とした。大人が、国が、世界が自らを見殺しにすることを決めていたのだ。幼い子供が受ける悪意の量ではない。もはや泣くことも諦めたリルはされるがままに剣士に投げられた。6mは離れた位置で魔道士が唱えた。     「厄災」

「厄災」は一般では知られていない禁忌とも言える魔法だ。これを知っているものは公爵や王族、その派閥の有力者のみである。効果としては、魔物を誘き寄せる。といっても極限まで運を悪くするといった嫌がらせのような魔法だ。

製作者が考えた魔法は時を経て、人の悪意によりテロさえ起こせる禁忌とされた。

その魔法にかかった途端、嫌な感覚を覚えた。まるで周囲で災害が起きたかのような、 人 を虫のように巻き込み殺す天災のような力を持ったナニかがこの場所を知った。そう感じた。本能に導かれ顔だけを動かし見た床の先で、深く暗い地下の世界から、こちらを見上げるナニかと、目があった気がした。リルは恐怖で気を失った。そんなことに気付きもしない男たちは、首をかしげていた。全く魔物の気配がないのだ。降りてくるときに倒したモンスターは、殺意を滾らせこちらへ向かった来た。しかし今は誰もが戦いの意思を持っていないのだろう。今感じるのは、大きく響く静寂だけ。まるですべてが塗り潰されたように、なにも感じられない。殺意も、害意も、己の鼓動すらも。ようやく違和感に気づいた男たちは、リルを置いたまま逃げ出そうとした。

しかしそれは叶わない。誰も今ここで動いてはならない、魔道師は頭を垂れた。

「は?俺はなにやってんだ!?ヤバい絶対にヤバいぞ!おい!どうにかしろ!魔法で帰還させろ!」

「………」

「おい?おいどうしたんだよ!返事しろよ!」

魔道士の男は理解していた。なぜ自分の口が開かないのか。なぜ体が動かないのか。本能だ。1秒でも長生きしたいと望む体が、勘と共にひれ伏し、動かないことを選んだのだ。そして、剣士が自分よりも早く死ぬことを、今もひれ伏す体が感じるのだ。怒りを買ったと。そう気づけば早かった。五本足で立つ二匹は、その多くの感覚器官で地の底より響く足音を聴く。

ドズン ドズン ドズン

揺れる体が震えていることに気づいたのは、地の揺れを感じたときだった。

足音ではない 潰れている 向かってくるのではない、運ばれているのだ。

数秒にも数時間にも感じたこの運搬作業が終わったのは、体が動くようになるのと同時だった。

それがどういう意味なのか、知るより先に、目の前に見える宝箱へと目が引かれた。いや、この表現は正しいとは言いがたい。目の前に来た宝箱に目が引かれたのだ。剣士が居た場所に佇む絢爛な宝箱へと。

「あぁ…あっ…いやだ…俺はまだ…こんな…こんなことで死ぬなんて…死ぬ筈ないんだぁァァァ!?!」

破れかぶれで放ったのは「インパクトフォーカス」先程紹介した「◯◯フォーカス」系統の魔法で、衝撃によって吹き飛ばす魔法だ。宝箱との距離を離すことだけで考えれば最適解な魔法だ。皮肉なことに命の危機に普段バカの妄言と考えていた勘で動く、体が動くが反応できない頭をおいて最適解を叩き出したこととなる。

しかし、詠唱を飛ばしたことにより威力は下がり効果的ではないだろう。そんなことは関係ないのだが。魔法を意に介さず宝箱は最短距離を詰めて口内で魔道士を磨り潰した。後に残されたのは宝箱と最初に死ぬ筈だったリルだけ。

目覚めたなら、この出会いはきっと、二度と忘れられないものとなるだろう

リル

14歳 栄養失調気味、スキルは操糸 痛打 new 痛み分け 

称号 new 見捨てられた者

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