表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞4

量子力学的きびだんご

 向こうの方から一人の男がやって来る。


 男は戦装束を身にまとい、立派な刀を携えて、日本一と書かれたのぼりを背負っておった。

 たいそう剣呑なその見た目に、お犬どんは恐怖のあまり震えあがった。


「おや、おやおやおや。

 これはお犬さまではありませんか」

「あっ……あなはたは?」

「申し遅れました、私は桃太郎。

 これから鬼退治に行くところなのですよ」


 桃太郎と名乗ったその男は、不気味なほどやさしく語りかけてくる。


「もし一緒に戦っていただけるのでしたら、

 こちらを差し上げますよ」


 そう言って男が差し出した袋には、何やら球状の物体が詰め込まれておった。


「こっ……これは?」

「量子力学を応用して作ったきびだんごです。

 観測すると形を変えてしまいますので、

 注意して食べて下さいね」


 言っている言意味が分からない。

 お犬どんは恐る恐る、袋の中に手を伸ばす。


 そこには確かに団子と思われる感触の何かが入っていた。


 一つ、手に取ってその正体を確かめてみる。

 すると不思議なことに、袋から取り出した途端にその物体はたちまち霧散して消え去ってしまったそうな。


「いっ……いったい何が」

「観測したことで、形を変えてしまったのです。

 さぁ……今度はもう一つ」

「あんたさっきから何を言ってるんだ。

 意味が分からなさ過ぎて不気味だ。

 一緒に鬼退治へは行けないよ」


 お犬ドンは勇気をもって断りました。


「おや、おやおやおや。

 仕方ありませんね。

 鬼退治には私一人で行くことにします。

 それでは、失礼」


 桃太郎と名乗った男は、足早に立ち去って行った。


 残されたお犬どんは、肉球に染み付いたあの感触を忘れられないでいる。

 袋の中に入っていたのは間違いなく団子だった。

 普通のお団子の感触だった。


 それが観測した途端、まるで霧となって消えたかのように、ふんわりと手から感覚が消えうせていったのだ。


 もしあのきびだんごを食べていたらどうなっていたのだろう。

 どんな味がしたのだろう。


 気になりすぎて今日も眠れる気がしない。








「こんにちは、おさるさん」


 桃太郎はお猿どんに声をかける。


「よろしければ、私と一緒に鬼退治にいきませんか?

 もしご一緒いただけるのでしたら、

 この量子力学的きびだんごを差し上げましょう」

「え? きびだんご?」


 何も知らないお猿どんはきょとんと首をかしげる。


「はい、この袋に入っています。

 是非とも手に取ってみてください」


 袋を差し出す桃太郎。

 その中に何が入っているのか、誰にも分からない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「なろうラジオ大賞4」から拝読させていただきました。 これはお犬どん、怖いでしょうね。 夜寝られなかったりして。 それとも観測問題で悩んで寝られなかったりして。
[良い点] 発想が違うのにゃ꒰ᵕ༚ᵕ⑅꒱☆ 量子学が難しく感じていましたが、 形をかえるきびだんご……面白いのです! 桃太郎さんが不思議な人物に見えてきたぁー。 続きが気になります(笑) [一言] …
[良い点]  なんという、会いたくない桃太郎……。  この意味不明な感じが、シュールで好きです。 [一言] 「残されたお犬どんは、肉球に染み付いたあの感触を忘れられないでいる」←ジワジワと笑いが込み上…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ