心がぽかぽかする
「お笑いライブ、、、」
「まだ引きずってるの?落選したこと!しょうがないわよ!
また今度にしろってことよ!」
そう話すのは、先輩の美香さん。
わたしが入社した時から、可愛がってくれてる。
超がつくほどの美人。
「でもぉ」
「大丈夫よ!また行ける機会はあるわよ!」
「美香さーん」
「喋る暇があるなら、仕事してください」
そう言ってきたのは、上司の佐藤さん。
仕事はできる。
だが、言葉に棘があるうえに、物事をストレートに言ってしまう。
そして、眼鏡の奥から見える冷たい視線。
それらが、みんなを怖がらせているのだ。
「相変わらず怖わねぇ、あの目つきといい、
言い方といいさっ」
「....……。」
「ねぇ!ちょっと聞いてるの?」
「ん?どうしました?」
「もう!人の話を聞きなさい!」
「ごめんなさい、、」
"ザブー"
「あ〝〜!なんてお風呂は気持ちいいんだぁ!」
工藤翔、女、23歳。164cm。
彼氏いない歴=年齢。中高、運動部に所属。
中学生の時から今もずっとショートカット。
よく男の子に間違われる。中学生の頃、、、
ーって、なんて平凡な人生なんだろう。ビール飲んで、寝よう
<次の日>
「翔さん、ちょっといい?」
「はい」
「翔さんって、お笑い芸人好きなんだっけ?
もしよかったら今度の日曜日、僕と一緒にお笑
いライブ行かない?友達がチケットくれたん
だ」
「え!いいの!行きたい!」
「本当っ!嬉しいな!それじゃあ、仕事終わったら連絡するね!」
「はい!!!」
あぁ!なんてついているんだ!
神様ありがとう!こんなことが起こるなんて!
わたしは幸せ者だ!!
「ねぇ!さっき、佐々木くんに呼び出されてたって本当?」
「はい!それがどうかしましたか?」
「社内1イケメンの佐々木くんに!?」
「社内1って笑
オーバーすぎですよ笑笑」
「それで?用件はなんだったの?」
「今週の日曜、お笑いライブ一緒に行かないかって」
「へぇ!意外!佐々木くんって、社内の女の子か
らご飯とか誘われても絶対行かないのよ!その
佐々木くんが、女の子を誘うなんてね、、、」
「そうなんですか」
「佐々木くん、翔のこと気になってるんじゃないの?」
「そんなまさか!ただの同期ですって!」
「どうだか〜♪」
佐々木くんが?まさかっ!
佐々木くんならもっと他にいい人いるでしょうよ!
軽く伸びをしながら時計の時間を見ると、
もう21時だった。
帰えろう。
スマホの液晶を見ると、佐々木くんからメッセージが来ていた。
「工藤さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
佐藤さんか。こんな遅くまでいるの珍しいな
「急で申し訳ないのですが、今週の日曜、出勤していただけますか?出勤するはずだった土屋さんが、来れなくなりまして、、」
「え、あの、その日はちょっ、、」
「お願いしますね」
そう言い残して、佐藤さんは帰ってしまった。
あぁ、わたしの、お笑いライブがぁぁぁぁ
<日曜日>
「工藤さん、おはようございます。
出勤していただきありがとうございます。」
「いえ、暇だったので笑」
今回はしょうがない。
たまたま予定が合わなかっただけだ。
そうだ。また、、機会はある、、、
時計は、お昼の12時を回った
お腹すいた、お昼何食べようかな
「工藤さん」
「わぁ!びっくりした!」
「これ、お昼まだでしたらどうぞ」
「え?ありがとうございます、、、!
これって、並ばないと買えないお弁当じゃな
いですか!」
「たまたま通りかかったら、列がなかったので」
意外と優しいところあるんだなぁ
いただきまーす!
ん!?!?美味しすぎる!!なんだこれは!
お弁当に免じて、出勤の件は、許します、、
<昼食後>
わたしは葛藤している。
高いところにある資料を、椅子に乗って取るか、
身長の高い佐藤さんに頼むか、悩んでいるのだ。
佐藤さんは180cm以上身長がある。
彼に頼めば、事は一瞬で済む。
しかし、、頼みに行くのがめんどくさい、、
よし、、、!
自分で取ろう
椅子に乗ったはいいものの、やっぱり、微妙に取れない、、、、
くっ、頑張れ、わたしの腕、脚!
ーんんっ、、取れたっ!
次の瞬間、
バランスを崩し、椅子から落ちた
ー痛っ、、くない?なんで?
「大丈夫ですか?」
目を開けると、佐藤さんに支えられていた
「あっ、ありが、、、」
ー!!!!
お姫様抱っこされてる!?
これは恥ずかしすぎる!
「佐藤さん。ありがとうございます。
あの、降ろしていただけませんか?笑」
「あっ、すみません!咄嗟のことで、つい」
「いえ、本当に助かりました」
ーわぁ、隣に立つと、佐藤さんって、やっぱり身
長高いなぁ、、
「あの、工藤さん、お怪我はありませんか?」
「......。」
「工藤さん?」
「はっ!へぇ?あっ、大丈夫です!」
「よかった」
ー佐藤さんって、こんなふうに優しい顔で微笑むんだ
「もう遅いですし、今日は帰りましょう」
「はいっ!」
佐藤さんって、皆んなに怖がられてるけど、
優しい人なんじゃないかな
今日だって、お昼ご飯くれたし、椅子から落ちそうになったわたしを助けてくれたし、、、
怖くないと思うけどなぁ
次の日、出勤すると、美香さんがニヤニヤしながら聞いてきた
「翔ちゃん、昨日はどうだったぁ?」
「え!昨日がどうかしました?」
「決まってるじゃない!佐々木くんとどうだった
のよ!」
「あぁ、そっちか。実は昨日、土屋さんの代わりに出勤したんです。だから、ライブには行けませんでした」
「えーー!どうしてよ!
私、てっきり佐々木くんに告白されたのかと
思ったのに!!」
「なんでライブ行っただけで、そうなるんですか笑」
一緒にライブ行っただけで告白なんて、ありえない
「あぁ、だから佐々木くん、今日元気なかったのかしら?」
「え?佐々木くんがですか?」
「そう!女子社員が佐々木くんの元気がないって騒いでたのよ」
もし、昨日のことで元気がないのなら、悪いことをした
あとでもう1度謝りに行こう
よし、女子社員はいなくなったみたいだ
メールで佐々木くんを呼び出すことにしよう
「翔さん」
「佐々木さん、昨日は誘ってくれたのに、
本当にごめんなさい」
「翔さんが謝ることじゃないよ!
お仕事が急に入ったのは、翔さんのせいじゃな
い!」
「でも、昨日のことで今日、佐々木さんが元気な
いのなら、申し訳なくて、、」
「あぁ。翔さんと行けるの楽しみだったからさ」
「お詫びとかにはならないかもだけど、これ」
「え?これ一寸法師のライブDVDっ!?」
「お貸しします」
「わぁ!嬉しいなぁ!
そうだ!今度一緒に見ようよ!2人で!」
「?」
「ね?」
「はい。時間があったら」
「やった!じゃあまたね!」
ん?聞き間違えだっただろうか、、、
2人で?え、どうしよう、、、、
そうだ!美香さんに相談だ!
「2人でですって!!!!」
「しーーー!」
休憩室だからって、美香さんってば声が大きい
「急に攻めてきたわね、佐々木くん。
しかも、DVD見るなんて、家ぐらいしかないじゃない」
あぁ、美香さん、この状況を楽しんでる
すごいニヤニヤしてる
「で、どうなの?翔は」
「どうって?」
「だ〜か〜ら〜、佐々木くんのこと好きなの?」
「好きでもないし、嫌いでもないです。
そんなに関わったこともないし」
「なによそれ!そんなに関わったことのない人
と、ライブ行こうとしてたの?」
あ、言われてみればそうだ
お笑いライブに行きたいがゆえに、あまり知らない佐々木くんの提案に乗ってしまった
ただの同期なのに
「お笑いライブに釣られました」
「まったく!だから彼氏いない歴=年齢なのよ!」
「ちょっと!それ関係ないじゃないですか!」
「翔はさ、好きな人いないの?」
「好きな人、、」
好きな人って、なんだろう
よくドラマでは、
頭の中がその人でいっぱいになる
その人が他の人と仲良くしてるとモヤモヤする
とかいうけど
私の好きは、どんなのだろう
<数日後>
「翔!一緒のチームだったわね!」
「チームって、なんのことですか?」
「社内運動会のチームに決まってるじゃない!」
そうだった。
なんだか、ぼーっとしてて、全然聞いてなかった
「…翔?大丈夫?具合悪いの?」
「いえ!美香さんが同じなら私たちのチー
ムは優勝確定ですね!」
「でしょ!しかも、私たちのチームには、
佐々木くんもいるのよ〜!
運動神経抜群の佐々木くんがいれば百人力だ
わ!」
えー。
なんで佐々木くんがいるのー。
って、なぜ嫌がる、私
他には誰がいるんだろう
あっ、佐藤さんも同じチームだ
<社内運動会の日>
運動会当日、社員全員、気合が入っている
なぜなら、優勝チームの景品は、熱海旅行
そりゃあわたしも気合が入る!!!
「きゃー!佐々木くんかっこいいー!」
黄色い歓声とともに登場した佐々木くん
こっちに向かってくる
「翔さん、頑張ろうね!二人三脚!」
「二人三脚?」
「競技リスト見てない?僕たちペアだよ!」
見てない。
あぁ、厄介なことになった
佐々木くんを好きな社内の女の子たちに、
あとで何を言われるか
男女のわたしなら、なんも言われないか
これも熱海旅行のため、優勝のためだ!
「頑張ろうね!」
「うん!」
「おい、真守。
翔ちゃん、男とペア組んで、二人三脚だとよ」
「知ってるよ、怪我しなきゃいいけど」
「なんだよそれ、嫌じゃないのかよ」
「そりゃあ嫌だけど、俺がどうこういうことじゃないし」
「大人だな、真守は」
「そんなんじゃないよ」
ー頑張れ、工藤さん
「いちについて、よーい、どんっ」
いちに、いちに、いちに、いちに
いいスタートをきった
今のところ、他のペアよりも速い
いちに、いちに、いちに
このまま1位いただきー!!!
いちに、いっ、、、
隣のペアがバランスを崩して、私たちの方に倒れてきた
それと一緒に私たちも倒れる
まずい、このままでは熱海が!
むくっと起き上がり、佐々木くんを立ち上がらせる
無我夢中だ!
いちに、いちに、いちに、
いけーーーー!!!!
「ゴーーーーールッ!1着は佐々木・工藤ペア!」
やった!勝った!熱海に近づいた!
「やったね!翔さん!!」
「やったーー!!」
ーっ、足が痛い!バランスを崩して倒れてしまっ
た
1位になることに必死で、足を挫いたことに気づ
かなかったらしい
「翔さん!大丈夫っ?」
「っ、大丈夫。ちょっと、足を挫いたみたい」
「医務室に行こう」
佐々木くんがお姫様抱っこをしようとしている
「本当に大丈夫だから!」
社員全員の前でお姫様抱っこは公開処刑だ
「いいから、ほらっ!」
「本当に大丈……」
「工藤さん、ごめんね」
急に佐藤さんが現れ、おんぶされた
「佐藤さんっ!?」
呆気に取られて、抵抗すらしなかった
おんぶされたまま後ろを振り返ると、佐々木くんが呆然と立ち尽くしていた
「佐藤さん、ごめんなさい」
佐藤さんが医務室まで連れてきてくれた
「いえ、足首は大丈夫?」
「はい、看護師の方に処置していただいたので」
「それは良かった」
「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、僕がしたくてしたことですから。
工藤さん、競技中に立ち上がった時、どこかを
痛めたみたいだったので」
「よく分かりましたね」
「たまたま見ていたので。
工藤さん、熱海旅行行きたいんですね」
「もちろんです!
熱海で温泉に入りたいので」
「無茶はいけませんよ、工藤さん」
「はい、気をつけます」
なんだか心がぽかぽかする
佐藤さんと話していると、心が落ち着く
"ガラガラガラッ"
「翔っ!大丈夫?」
「美香さん!」
「もうあんたって子は!無茶するから!!」
「ごめんなさい、美香さん」
「では、わたしはこれで」
「あっ、佐藤さん!ありがとうございました」
「いえ、お大事に」
この日、私たちのチームは、見事優勝した
熱海旅行に行けることになったのだ
この時わたしは想像もしてなかった
旅行先で起こる、ある出来事を
第1章 完