弟子入り志願
放課後、皆んなが帰った頃を見計らって教室を出る。松葉杖で歩くのは時間かかるから、人が居なくなってからゆっくり行こうと思って。
隣を歩くマヤは、何も言わずに付き合ってくれている。こういうさり気ない優しさ見習いたい。
「今朝は驚いたわ。まさかシーナが入り待ちに参加するなんて。明日も参加するつもり?」
「うん、卒業までずっと参加したいかな」
「後悔しないようにってやつ?」
「そうそう」
「あんなに震えてたのに?」
「えっ?」
「私が気付かないとでも思って?」
聞けば、背中を摩ってくれた時に気付いたらしい。顔色が良かったから体調不良からくる震えではない。とすると、恐怖心や緊張感といったストレスからきているのではないか、と。
「シーナがあまりに真剣に婚約者さまを見つめてたから、恐怖心ではなさそうかなって。つまり緊張で震えてたって考えたんだけど、どう?」
いやはや参りました、ご明答。やっぱりマヤは凄い。今後についての決意がいよいよ固まってきた。
「は〜、マヤには敵わないなぁ。私あがり症なの、それもフェリクス様限定で」
「あがり症?」
「うん、本人を前にすると一言も喋れなくなっちゃうの。側に居るって思うだけで凄く緊張しちゃって。その所為で、いつ捨てられてもおかしくないくらい」
「そうだったの? 婚約者さまと上手くいってないんだろうな、とは思ってたけど。まさかシーナがあがり症だったなんて」
「あがり症に効くお薬ってない?」
「そうねぇ、直接効く薬は聞いたことないかな。お父様なら或いは……
無意識……心の……だと……リラックス……ストレスを……このアプローチ……もしかしたら……」
立ち止まり、腕を組んでブツブツ言いながら考えているマヤ。本当に凄い。やっぱり道はコレしかないと思う!
「ねぇ、私、薬師になりたいの。弟子にして「絶対いや」欲し……」
「って、返事早っ! せめて最後まで言わせて!?」
「絶対嫌よ、未来の宰相様の妻になるんでしょ? 薬師は諦めなさいよ」
「……妻になれないかもしれない」
「はぁぁーー?」
「未来がどうなるかなんて分からないじゃない。もしかしたら私がセフチノに移住する未来だって……そうだわ、怪我が治ったらセフチノへ行くわ! 留学する!」
「待て待て待て、だいたい婚約者さまが許可するわけないでしょう?」
「それは大丈夫! そして、離れても一生フェリクス様のファンでい続けるわよ!」
「ファンって、全然意味が分からない。とりあえず弟子も移住も留学も却下で」
「そ、そんなぁ……」
「ただ、あがり症については何とかしたいから一緒に治しましょう」
「し、師匠〜〜!」
「はぁ……手紙に書いてあったけれど本当に別人のようね。こんな事ってあるのね」
最後のマヤの呟きは、小さすぎて聞こえなかった。
(あーあ、予想通り首を縦に振ってもらえなかったなぁ)
婚約破棄後の人生で手に職は絶対に必要。推しのいるこの世界で生きる為、薬師の道は諦めないんだからっ。