学園再開、からの再会
この階の突き当たりにある生徒会室。そこへ向かう役員メンバーを見るために、令嬢たちが廊下の両端に並び待機している。まるで芸能人の入り待ちだ。これが毎朝の光景。
いつもならとっくに自分の席に着いて、内心すっごくドキドキ(フェリクス様が通るって思うだけで心拍が上がってしまう)しながら授業の準備をしているところだけど。
でも今日からは違う。あがり症だからって、授業の準備に逃げたりしない。
(推しの入り待ちなんて最高にトキメク瞬間じゃない! フェリクス様の御姿を、この目にしっかり焼き付けるんだからっ!!)
回れ右をし、廊下に向いて待機する。
「シーナ? 席行かないの?」
「うん、行かない。目の保養をするの」
「め、目の保養? 何、どうしちゃったの」
「事故に遭って、自分の身がいつどうなるか分からないんだから一瞬一瞬を大切に、後悔しないように生きなきゃって思ったの」
廊下を見つめたままそう伝えると、マヤが労るように優しく背中を摩ってくれる。「人生観が変わるほどの事故だったのね……」と呟きながら。
……人生観どころか、人格が変わっちゃったんだけどね。
ざわざわと騒がしかった廊下が突然、水を打ったように静まった。
聞こえるのは数人の足音だけ。
ドクドクと波打つ心臓。
そして現れた王太子殿下とヒロイン。
(本当に生の人間だ……動いてる……)
主役のオーラがあまりにキラキラ眩しくて、神々しくて、無意識に手を合わせ拝んでいた。
続いて、書記のロードリック様と会計のカミル様が通る。
冗談でも言い合っているのか、2人が顔を見合わせ笑い合う。すると辺りから「ほぅ……」と感嘆のため息が上がった。
(な、何コレ……! 新しい扉が開いてしまいそうなんですけど!)
思わず両手で顔を覆い天を仰ぐ。自分に向けられた笑顔じゃないのにこの威力。さすが乙女ゲーの世界。
……鼻血が出そう。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせていると、マヤが「あ、婚約者さまだ」と言うから慌てて視線を戻した。
シーナはいつも、緊張し過ぎて直視出来ず俯いていた。
涼子はどんなに恋焦がれても、画面越しに見つめる事しか出来なかった。
……なんて美しいの。
生の推しが今、目の前に居る奇跡。夢でも何でもいい。しっかり目に焼き付けたい。
一瞬でも目を瞑るのが勿体無くて瞬きもせずに見つめていると、突然バチッと目が合った。フェリクス様は一瞬驚いたように目を見開き、すぐにフイッと視線を逸らした。
(うわあああ、何と言う事だ!! 目が合ったよ!! こんな幸せな事があっていいのだろうか!!)
……一生分の徳を使い切ったかも。
心が震える。視界がボヤける。
人間って感激し過ぎると涙が出るもんなんだなぁ、感極まるってこういうことなんだなぁ、なんて冷静に考えて気を逸らす。そうしないと溢れてしまいそうだから。