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婚約破棄

初作品です。至らない点も多々あるかと思いますが、ゆるゆる設定、温かい目で見て頂けると有り難いです。

「シーナ、貴女との婚約を破棄したい」


 学園の裏庭にある四阿で、向かいに座る婚約者のビュッフィナー公爵家嫡男・フェリクス様から放たれた一言は、あまりにも衝撃的だった。鈍器で殴られたようなショックが全身を走る。


 フェリクス様と2人きりというこの状況にただでさえ震えが止まらないというのに、更に血の気が引き身体の熱が無くなっていく。

 頭の中は「何故…どうして…」がぐるぐるしていて、何か言わなければと思うのに返す言葉が浮かばない。

 それでも何か話そうと口を開けば、カラカラに乾いた喉はまるで張り付いてしまったように何の音も発せない。


「こんな時でも、君は何も言わないんだな」


 フェリクス様の表情に諦めと落胆の色が見える。


 ……嗚呼、違うのです。

 ……言わないのではなく、言えないのです。

 

 どんどん早く浅くなる呼吸。倒れないように意識を保つので精一杯。苦しくて、膝に置いている手でスカートをぎゅっと握る。


「親同士が決めた婚約とは言え、進める前にまず君に伝えてからと思ったんだ。しかし無駄だったようだ。時間を取らせて悪かった」


 そう言って立ち上がり足早に去っていくフェリクス様。そのうしろ姿を、私はただ呆然と眺めていた。











 あの後フラフラしながらも何とか馬車まで歩き乗り込んだ。私があまりに顔面蒼白だった為、何かあったのかと、いつも穏やかで落ち着いている壮年の御者が随分驚き慌てふためいていた。ただの貧血だと微笑めば、渋々納得してくれた。


 帰路を馬車に揺られる中、目を瞑ると浮かんでくるのはフェリクス様と過ごした日々。同い年であり、10歳で婚約が決められ、その直後に初めてお会いしてからずっとお慕いしてきた。


 あれから7年。


 フェリクス様はそれはそれはカッコいい。芸術品のように整った美しいお顔、額にかかるさらさらとした銀色の髪、切れ長の目に薄いグリーンの瞳。長い手脚から繰り出される所作は美しく、立ち居振る舞いから全て、何をしていてもカッコいい。


(婚約者があまりに完璧すぎて、ツラい)


 故に、気付いた時には〝フェリクス様限定あがり症〟を発症していた。


 お茶会では緊張のあまり会話が全く続かず、いただいた菓子の味も分からない。エスコートする為に差し出された手も畏れ多くて触れられない。贈り物をされても勿体無くて使えない。

 こんな調子だから、フェリクス様とのお茶会の回数は年々減少していった。


(そう言えば婚約を破棄したい理由を聞きそびれてしまったわ。まぁ、聞かなくてもこんな不甲斐ない婚約者じゃ破棄されて当然ね……)


 馬車がゆっくり停車し、御者の「到着しました」の言葉で外に出る。


(お父様になんと伝えるべきかしら?きっとがっかりされるわね)


 そんな事を考えていたら足を踏み外した。世界が突然スローモーションになり、出迎えてくれた侍女のリラが焦った表情で駆け寄ってくる。

 

 が、間に合わない。


 どしんという物凄い音を立てた直後、痛みが身体を襲う。


(今日はなんてツイていない日なの…)


 流れる涙は婚約破棄を告げられた悲しさからか、それとも全身を襲う痛みからか。


 私はそのまま意識を手放した。

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