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第91話 2人で、もう泣かないと決めた日

「フィリップ…私の妊娠のこと病気のこと…両方一緒に告げるの?」


「うん、そうだよ。少し、座って話さない?」


「ええ、そうね」


フィリップに促されて、私達はカウチソファに並んで座った。


「実はね…エルザには酷な話だとは思うけど、以前僕が結婚する前に両親から言われたことを君に話した内容は…覚えているかな?」


フィリップは申し訳無さそうな表情を浮かべて私に尋ねてきた。


「ひょっとして、私を愛することをしないようにってお義父様とお義母様に言われたこと?私達はブライトン家への当てつけの結婚だから私に心を許さないように釘を刺されたことを言ってるの?」


「うん…そうなんだ。だから、両親は…僕達が愛し合っていることをまだ知らないんだ。もし、そんなことが両親に知られたらエルザと引き離されてしまう可能性があったからね。だからセシルには両親に僕達のことは口止めしてもらっているんだ。結婚前からセシルには僕とエルザの結婚生活については一切口出ししないように言い聞かせていたしね」


そしてフィリップは私の手を握りしめてきた。


「父はワンマンな人で、しかもプライドも高い。実は僕はまだ父から家督を継いでいないんだ。だけど…今更継いだって意味は無いんだけどね。僕の病気のことを告げれば、家督はセシルが継ぐことになるはずだよ」


フィリップは寂しそうに笑った。


「フィリップ…」


その言葉に鼻の奥がツンとなって目頭が熱くなってきた。


「エルザ…」


私の表情に気付いたのか、フィリップがハッとした顔で私を見た。


「ごめん!エルザッ!」


フィリップの腕が伸びてきて、私を抱きしめてきた。


「フィリップ…」


彼の胸に顔を押し付け、涙を流した。


「ごめん…君を悲しませるつもりは無かったんだ…。ただ、僕は…」


顔は見えないけれども、フィリップの声も涙声だった。そうだ、悲しいのは私だけじゃない。


フィリップのほうが…もっともっと悲しいはずなのに…。

私はそんな彼を元気づけて上げなければならないのに…。


「ご、ごめんなさ…い…あ、貴方の方が…余程辛い状況なのに、泣いたりして…」


「違うよ。僕が悪いんだ…こんな病気になって…余命僅かなのに、欲を出して…君と結婚して…エルザを残して先に死んでしまうことは分かりきっていたのに…」


これ以上フィリップを苦しませたくない…。


だから、私は涙で濡れた顔を上げてフィリップを見つめると語りかけた。


「フィリップ…私、もう泣かないわ。だって、泣いてばかりいたらお腹の赤ちゃんに悪い影響がでてしまうかもしれないでしょう?これからは2人で笑って過ごしましょう?」


「うん、そうだね…。とにかくエルザが安定期に入ったら両親にエルザが妊娠したことを告げるよ。君を愛していることもはっきり伝える。僕が病気のことも一緒に伝えて…今の仕事を全てセシルに任せることに決めたんだ。残り僅かな人生は…片時も君から離れないで一緒に過ごしたいから…」


フィリップは私の頬を両手でそっと包み込んだ。


「愛しているよ…エルザ」


「私も…フィリップを愛しているわ…」


そして私達は抱きしめあって、キスをした―。




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