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第82話 フィリップの訴え

「それで?俺に大事な話って一体何だい?」


セシルがフィリップに尋ねた。


「うん…どうせなら場所を変えよう。僕の書斎に行かないかい?エルザも一緒に」


「ええ、行くわ」


フィリップの言葉に頷く。


「よし、それじゃ3人で一緒に行こう」


フィリップは私とセシルに笑顔を向けた―。




****



 10分後―


私達はセシルの書斎に集まり、ソファに座っていた。


「それでは失礼致します」


お茶を用意してくれたチャールズさんが頭を下げて、書斎を出ていくと早速セシルが尋ねてきた。


「それで?兄さん、大事な話って何だい?」


「うん…そのことだけどね…」


フィリップはお茶を一口飲むと、立ち上がり書斎机に向かった。


「フィリップ?」


一体フィリップはどうしたのだろう?

セシルも不思議そうにフィリップの様子を見ている。


「これをセシルに見せようかと思ってね」


フィリップは引き出しから封筒を取り出すと、セシルの前に差し出した。


「何だい?これは…」


封筒を受け取りながらセシルは尋ねた。


「病院の診断書だよ」


「え?!病院っ?!」


セシルは慌てたように封筒から書類を取り出し、目を通し始めた。


「え…?な、何だよこれ…胃癌?持って…後1年だってっ?!しかも日付は3ヶ月前になってるじゃないかっ!つまりこれって…」


セシルは震えながら診断書を見ている。


「フィリップ…お医者様からの診断書があったのね」


「うん。ごめん…まだエルザには見せていなかったよね。」


フィリップが私に謝ってきた。


「何だよ…2人とも…今の会話…。まさか、エルザは兄さんの病気のことを知ってたのか?!」


セシルが目を見開いて私を見た。


「ええ…知ってたわ」


「知ってたって…」


呆然とした様子でフィリップを見つめるセシル。


「ごめん、セシル。僕は自分の余命が僅かなのを分かっていながらエルザを妻に迎えたんだ。自分の病気のことを伏せて…。エルザのことを…愛しているから…」


「フィリップ…」


フィリップの『愛している』と言う言葉が私の胸に染み入ってくる。


「何で……何で俺に謝るんだよ?」


セシルの目が涙目になっていた。


「え…?それは…」


フィリップの顔に戸惑いの色が浮かぶ。


「謝るなら、俺にじゃなくてエルザにだろうっ?!しかも…病気のことを伏せて…なんて…最低じゃないか…っ!」


セシルの声は最後の方は涙混じりになっていた。


「うん…僕は最低な人間だよ…病気のことを伏せてエルザに結婚を申し込んだんだから」


「それは違うわ!」


私はすぐに否定した。


「エルザ…」


フィリップが驚いた様子で私を見た。


「私は…例え、結婚前にフィリップの病気のことを知っていたとしても…貴方と結婚していたわ。だって…貴方を愛しているのだもの」


「そんな風に言ってもらえるなんて…ありがとう。すごく嬉しいよ」


フィリップが笑みを浮かべて私を見つめ…セシルは悲しげにフィリップを見た。


「…兄さん、本当に、ここの診断書に書かれているのは事実なのか?もう…治すことは出来ないのか?」


「癌が不治の病だってことはセシルだって知っているだろう?」


「だ、だけど…後1年も無い…なんって…」


「だからセシルに打ち明けることにしたんだよ」


「え?兄さん…?」


「今日…実は病院に行ってきたんだ。先生に言われたんだよ。病の進行を少しでも食い止めるために…治療に専念したほうがいいって。だからセシル。僕に協力してくれないか?」


「協力…?」


「うん。父は完全に今の事業を僕に任せようとしているのは知っているだろう?けれど…もう理解しただろうけど、僕では無理なんだ。余命僅かな人間が事業を継ぐわけにはいかないんだ。だからセシルが僕の代わりに事業を引き継ぐんだよ。僕はセシルの補佐に回る。頼む、 僕は…治療に専念したいんだ。少しでも長く生きて…愛するエルザの側にいたいんだ…」


そしてフィリップは隣に座る私の手を握りしめてきた―。


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