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第62話 フィリップの話 2

「父と母は何度も何度も君の両親に訴えたんだ。ローズが逃げて恥をかかされたのだから、代わりにエルザ…君を嫁がせろってね。だけど君の両親は首を縦に振らなかった。恐らく嫁がせれば君が不幸になるからだと思ったんだろうね。業を煮やした父と母は、次に僕からエルザに結婚を申し込むように命令してきたんだ。…当然僕は断ったよ。余命を宣言されているのにエルザを妻に迎えられるはずはないからね。…結婚しても1年足らずで恐らく君は未亡人になってしまう。第一両親は僕が病気で長く生きられないことはまだ知らないし…」


「フィリップ…」


私はフィリップの顔をじっと見た。…もう1年も生きられないかもしれないなんて…。そう思うと、再び涙が再び溢れ出してきた。


「エルザ…ごめん。泣かないでおくれ?…だから、僕は…敢えて君に辛く当たってきたんだよ…。それがどれほど君を傷つける行為か分かりきっていたのに…」


フィリップは私を胸に抱きしめてきた。


「…どういう事なの?敢えて私に辛く…当たって来たって…?」


フィリップの胸に顔を埋め、私は尋ねた。


「両親からの圧力が強くて…それで僕は覚悟を決めて君にプロポーズしたんだ。どうせ…君は断ってくると思ったからね。それなのに、僕との結婚を承諾してくれた。それがどれほど嬉しかったか…。でもそれと同時に激しく後悔したよ。ひょっとするとローズの身代わりで渋々僕の元へ嫁いでくるんじゃないかってね。それだけじゃない。この結婚は先が見えているんだ。僕には君を末永く幸せにすることなんて出来ない。君にとって結婚生活が不幸だったほうが…僕が死んでこの世からいなくなっても悲しむことは無いんじゃないかって思って…それならいっそ僕を嫌いになってもらったほうがエルザの為になると考えたんだよ…」


フィリップの声が涙声だった。

つまり、自分がもう長く生きられないから…わざと私から憎まれるような態度を取っていたと言うのだろうか?


でも…それはフィリップの大きな間違いだ。だって、私は…。


「フィリップ…それ違うわ…」


私は顔を上げるとフィリップを見上げた。


「だって、私は子供の頃からずっと貴方が好きだったんだもの。何をされたって嫌いになんかなれないわ。だって、貴方と結婚出来たことがどれほど嬉しかったか…分かる?」


「エ、エルザ…」


フィリップの目からポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。


「今迄…ご、ごめん…。ずっと…ずっと辛かった…。君に冷たい態度を取ることが…本当は…優しくしてあげたかったのに…君を言い訳にして僕は逃げていたんだ…。君と幸せな結婚生活を送ってしまえば…死ぬのが…辛くなるから…だ、だから僕は…」


「フィリップ…泣かないで?ありがとう、本当の事を話してくれて…」


フィリップの頬を両手で挟むと私は笑みを浮かべた。


「エルザ…エルザ…」


フィリップは私を強く抱きしめ、まるで子供のように泣き続けた。


私はそんな彼を抱きしめ、2人で一緒に涙を流しながら思った。


ようやく…私達2人の思いが通じ合ったのだと―。


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