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第33話 思いがけない話

「そうだわ。フィリップ。さっきお礼を言い忘れてしまったけれど、新しくお部屋を用意してくれてありがとう。とても気に入ったわ」


私は早速フィリップに部屋のお礼を述べた。


「別にお礼を言うほどのことじゃないよ」


フィリップは魚料理を口にしながら視線もあわせずに返事をする。


「え?何だい?部屋の準備って…。あの部屋はエルザの部屋じゃなかったのか?」


ブレッドにミートソースを塗っていたセシルが私に尋ねてきた。


「え、ええ。あの部屋は…バラが大好きだったお姉さまの…お部屋だったの。そうでしょう?フィリップ」


「…そうだよ。あの部屋は…ローズの為の部屋だった」


ワインを口に運ぶフィリップの顔は何処か寂しげだった。


「え?そうだったのか…?俺はてっきりエルザはバラの花が好きだとばかり思っていたよ。父さんも母さんもそう言っていたし…。だからあの部屋はそのままエルザに使わせればいいって…。きっと喜んで使うに決まっていると言ってたのに?」


セシルの言葉に私は固まった。


え…?確かお2人は私がバラアレルギーを持っている事をご存知のはず…?なのに何故そんな嘘を…?



子供の頃、私は姉と一緒にこのお屋敷の庭に遊びに行って…バラアレルギーを起こしてしまった。バラ園だとは知らなかったのだ。その時お義母様が一緒にいて、母から私がバラアレルギーを持っていることを知らされたはずなのに…ひょっとして忘れてしまっていた…?


私は頭が混乱してきた。


「セシルは知らなかったのか?エルザはバラアレルギーを持っているんだ」


フィリップはセシルをチラリと見た。


「えっ?!そうだったのか…?だったら何故父さんと母さんは…」


するとフィリップが言った。


「セシル、絶対に部屋を改築した事は父と母には言うなよ?この離れを貰う条件が部屋に一切手を加えないようにすることが条件だったのだから。それに…」


その話も初耳だった。

そしてフィリップは私を一瞬見た。


「フィリップ…?」


しかし、フィリップはすぐに視線をそらせるとセシルに話しかけた。


「セシル、今夜は泊まっていかないか?とっておきのワインがあるんだ。久しぶりに兄弟2人だけで飲もう」


「あ、ああ…でもエルザは…?」


セシルは申し訳なさそうに私を見た。


「エルザは明日から3日間、実家に帰って療養するからね」


「えっ?!」


そんな話は今、始めて聞いた。


「そうなのか?結婚したばかりなのに…エルザを実家に戻すのか?」


セシルが驚いたようにフィリップを見る。


「フィ、フィリップ…?」


するとフィリップは言った。


「実家なら気兼ねなしに身体を休める事が出来るだろう?幸い…父も母も1週間家を開けて留守にする。義理の両親がいれば遠慮して里帰りだってしずらいだろうし」


「確かに…兄さんの話は一理あるかもしれないな…」


セシルがポツリと言う。



フィリップ…。


「いいね?エルザ。実家に帰って…静養するんだ」


その声は淡々としていたけれども…何故か今回は私から視線をそらさずにじっと見つめてくる。それは…結婚する前の、優しかった頃のフィリップと同じ目をしていた。


この提案には…きっと深い理由があるはずなんだ…。



「わ、分かったわ。そうね…実家に帰って、2、3日…静養して、又戻ってくるわ」


ドキドキしながら私は言った。これは私の賭けだった。


もし、戻ってこなくていいと言われたら…私は彼の望み通りに2年後に離婚届を提出しよう―。


すると、フィリップは私から視線をそらせると、静かに言った。


「そうだな、3日後にまた戻っておいで。行きも帰りも馬車を手配しておくから」


そしてフィリップは再びワインを口にした―。



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