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第195話 2人だけの晩餐会

「フィリップ……」


フィリップからの手紙を胸に抱きしめた。

涙が溢れて止まらない。


この手紙にはフィリップの覚悟が込められていた。

筆跡はかなり弱々しかった。

死の床にありながら……きっと気力で書きあげたに違いない。


フィリップは私と結婚したときから、私の再婚を望んでいたのだ。

だから冷たい態度で突き放そうとした。

そして互いの気持ちが通じ合って、結ばれた後も……ずっと私が誰かと再婚するのを考えていたのだ。


「フィリップ……私が再婚することが、貴方の望みなの?そしてその相手はセシルがいいと思っているの……?」


 

 正直に言うと、セシルは私にとっては大切な幼馴染には違いない。

けれど、それには恋愛感情は伴っていない。

彼は私の親友みたいなものなのだ。

フィリップに対する恋慕のようなものは無い。


一方、セシルは私にはっきりと好意を示している。

その上で、敢えて私と距離を置こうとしているのだ。


私の気持ちが自分には向いていないことを知っていたから……。


このまま、ここでセシルと一緒に暮らしていれば自然な流れで私達は夫婦になれるかもしれないけれど、それではセシルに対してあまりに不誠実な気がする。


やはり、私を最期まで心配してくれていたフィリップには悪いけれども…今セシルの言う通り私はここを出ていった方がいいのだろう。


父も母も私の将来を案じているけれども、私には簿記の資格もあるので経理は得意だ。

父の会社で経理の仕事を任せてもらうか、駄目なら他を当たってみてもいい。

ルークを育てながら…1人で生計を立てる道だってあるかもしれない。


「この部屋とも……明日でお別れね」


寂しさを感じながら、フィリップからの手紙をショルダーバッグにしまうと私は再び荷造りを始めた――。




****


 18時半――


約束の時間になったので眠っているルークを連れてダイニングルームに行くと、既にそこにはセシルが到着していた。


「こんばんは、セシル。お義父様とお義母様は?」


てっきり4人で食事をすると思っていたのに、ダイニングルームにはセシル1人しかいなかった。


「いや…両親には遠慮してもらったんだ。エルザと2人きりで食事がしたかったから」


「そうだったのね」


テーブルの隣にはベビーベッドが用意されている。

眠っているルークをベッドに寝かせると、私達は向き合って座った。


すると、すぐに今夜の給仕を務めてくれるデイブが現れて次々と料理をテーブルの上に並べていく。

その料理はどれも私が好きな…いわゆる平民向けの料理だったのだ。


「この屋敷にいる使用人たちから聞いたんだ。エルザがどんな料理が好きか…」


テーブルに灯されたキャンドルのせいか、セシルの顔が赤く見える。


「ありがとう。セシル」


そしてセシルのグラスにはワイン、私のグラスにはぶどうジュースが注がれた。


授乳している私を気遣って来れているセシルの気持ちが嬉しかった。


やがて、デイブがお辞儀をして去っていくとセシルがグラスを手に声を掛けてきた。


「それじゃ、乾杯しようか?」


「ええ。そうね」



そして、2人だけの最後の晩餐会が始まった――。



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