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第192話 2人で決めたこと

「セシル……それは、もう私の…手伝いは必要無いってこと……?」


尋ねる声が震えているのが自分で分かった。


「仕事なら、なんとかなるさ。元々今の仕事は父さんと兄さん2人でやっていたからな。いざとなれば別に人を雇ってもいいしな。だからエルザは何も気にすることはない。実家に戻り、アンバー家の姓を抜いて元のブライトン家の姓に戻るといい」


セシルは淡々と話をする。

その声には何も感情が伴っていないように感じた。


「分かったわ……」


そこまで言い切るなら、もう私はこれ以上セシルに言うことは無かった。


「エルザ……それじゃ……」


セシルは私の顔を見た。


「ええ……。明日、雨が止んだら……ブライトン家に戻るわ」


「ああ、そうだな……」


その時――。


コンコン


扉の音が響き渡った。

それは私とセシルを迎えに来たノック音だった――。




****



 帰りの馬車の中で、私とセシルは色々な話をした。

話の殆どは子供の頃の話ばかりだった。

そこにはフィリップも姉のローズも話に登っていた。



「本当にエルザは子供の頃は良く泣いていたよな」


セシルがからかうように私を見ている。


「それは仕方ないでしょう?セシルがいつも私をからかっていたからでしょう?」


「そしていつも兄さんの陰に逃げていたんだよな」


「ええ、そうよ。フィリップは必ず私を庇ってくれていたもの」


「兄さんもエルザのことを好きだったからな。俺も兄さんのようにエルザに接していたら……選んでもらえたかな?」


「!そ、それ…は……」


思わず言葉に詰まると、セシルが笑った。


「ごめん。今のは意地の悪い質問だったな……どうか忘れてくれ」


「…ええ……そうね……」


『忘れてくれ』


その言葉がチクリと私の胸に突き刺さる。

この気持は……一体何なのだろう?


私は曖昧に返事をすると、馬車の窓から外を眺めた。


「あ……」


見ると雨は止み、あれ程重たい雲はいつの間にか薄曇りになっていた。

雲の切れ目からは太陽の光が地上にところどころ射し込んでいる。


「この分だと……明日は晴れだな」


向かい側に座るセシルがポツリと言った。


「ええ、そうね……」


その言葉に、私は静かに頷くのだった――。





****




「セシルッ!エルザッ!」


私達の馬車を迎えてくれたのは本館の使用人たちと義父母だった。


「セシルッ!どうしてそんな身体で勝手に出歩いていなくなってしまうのよっ!貴方にまで何かあったら……っ!」


義母はセシルを見るなり、泣き崩れてしまった。


「…ごめん。母さん。兄さんを亡くしたばかりなのに……心配掛けさせて」


すると義父が目を見開いた。


「セシル、お前…記憶が戻ったのかっ?!」


「ああ、戻ったよ。本当に迷惑かけてごめん……」



私はそんな3人の様子を少し離れたところで見守っていた。

その時、背後で名前を呼ばれた。


「エルザ様」


振り向くと立っていたのはクララだった。腕の中にはルークがいる。


「ルーク……」


「どうぞ、エルザ様」


「ええ」


クララからルークを受け取ると、私は彼女に言った。


「明日……ブライトン家に戻るわ」


と――。





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