第186話 セシルの行方
出掛ける準備を終えると、私は義母にルークをお願いした。
「お義母様。それではルークのことを宜しくお願い致します。先ほど、沢山授乳したので、しばらくはお腹を空かせて泣くことは無いと思いますので」
「ええ、分かったわ。これでも2人の子供を育て上げたのだからルークのことは大丈夫、任せて頂戴」
義母は胸に抱いたルークを見つめた。
「ありがとうございます」
お礼を述べると、義母が心配そうな表情を浮かべる。
「それより、エルザ。貴女こそ大丈夫なの?本当にセシルがお墓に行ってるかどうかも分からないのに……」
「はい、大丈夫です。もしいなければ教会でセシルを見かけていないか確認を取ってみますから」
けれど、これは私の勘でしかないけれど……セシルは絶対お墓に行ってるような気がする。
「分かったわ……こちらでもセシルの行方の手がかりを探してみるわ」
「お願いします」
そしてわたしはエントランスへ向かった――。
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ガラガラと音を立てて馬車は雨脚の強まって来た町の中を走っていた。
灰色に覆われた厚い雲を見る限り、当分雨はやみそうに思えない。
「セシル……貴方は車椅子でしか移動出来ないのに‥‥何故無理をして出かけてしまったの…?」
思わずポツリと言葉を口に出していた。
そんなに私と母の会話がショックだったのだろうか?
私は別にセシルのことは嫌っていないし、拒絶しているつもりも無かった。
あの場ではっきり母に伝えていれば、セシルは姿を消さなかったのだろうか……?
「セシル……」
窓の外を見つめながら、私はそっとセシルの名を口にした――。
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墓地のある教会に到着すると馬車には待っていてもらい、私は1人で傘を差すと墓地へと向かった。
外は冷たい雨が降り注ぎ、私の吐く息は白く見える。
セシルを探しに来たのに、出来ればお墓の前にいて欲しくない……。
そんな複雑な気持ちにとらわれながら丘の上の墓地を目指した。
「え…?」
ザアザアと降りしきる雨の中……墓地の前に人影がみえた。
まさか‥‥セシルッ?!
降りしきる雨で足元の悪い濡れた芝生の中を必死で歩き…私はついに発見した。
フィリップのお墓の前には傘もささずに雨でびしょ濡れのセシルの姿がそこにあったのだ。
「セシルッ!」
こちらに背を向けているセシルの名を呼びながら私は彼に駆け寄った。
「セシルッ!!」
セシルの正面に回り込み、私は息を呑んだ。
車椅子の背もたれに寄り掛かったセシルは目を閉じ…意識を失っていたのだ――。




