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第159話 セシルの病状

 3時間後――


「な、何ですってっ?!セシルがっ?!」


ルークを連れてきた母を特別個室に入れる前に廊下に連れ出し、事情を説明した時に第一声に上げたのがこの言葉だった。


「ええ、そうなの。困ったことになってしまったのよ。どうやらセシルは私のことを自分の妻だと思っているの」


眉を潜めながら母に状況を伝えると、みるみるうちにルークを胸に抱いている母の顔が青ざめてきた。


「それで、エルザ。勿論違うと否定したのでしょうね?」


「ええ……それは勿論否定したわ。だけど嘘をつくなと言われて信じてくれないのよ。そこでお医者様を呼んで、もう一度セシルに話をしようとしたら……今度は頭が痛むと訴えてきたのよ。それで無理に記憶を思い出させないほうが良いとお医者様に言われて……それきり本当のことは伝えられていないの」


「そ、そんな……。それじゃ、セシルはひょっとするとフィリップのことを忘れているの?!」


「……ええ。そうなの。それどころか自分は一人っ子だと思っているのよ」


セシルがそんな風に思い込んでいるのは正直ショックだった。セシルにとって、フィリップの存在は簡単に忘れてしまえる程度でしか無かったのだろうか?


「それじゃ、どうするの?ルークはそろそろお腹が空いてくる頃よ。授乳をしなければいけないのに…」


母が話をしている最中に、それまでスヤスヤ眠っていたルークがむずかりだした。


「大変!ルークがお腹をすかせて目を覚ましてしまったわよ?」


母が私にルークを託してきた途端……。


「ホンギャアッ!ホンギャアッ!」


ついに病室の廊下の前でルークが泣き出してしまった。


「エルザ……」


母は心配そうに私を見つめている。


「……」


ルークをセシルの前に連れて行けば勘違いされるに決まっている


「私、ホテルに戻って授乳してくるわ」


「ええ、そうね。それなら一緒に戻りましょう」


こうして私は母と一緒にルークを連れてホテルへ戻ることにした――





****



 ホテルへ戻って30分後――


ルークの授乳を終えると母に声を掛けた。


「お母様。それでは私の代わりにルークをお願いね」


「ええ。分かったわ。それならセシルの記憶が戻るまでは授乳の時間に合せてホテルに戻ってらっしゃい」


「ええ。分かったわ」


眠っているルークにキスすると、再びセシルの入院する病室へ向かった――。




****



 セシルの入院する特別個室の前に戻った私は深呼吸をして息を整えると、扉を開けた。


ガチャ‥‥


病室の中に入ると、セシルは不自由な体でベッドから身体を起こして新聞を読んでいた。


「セシル!そんな身体で起き上がったりしたら駄目じゃない!」


「あ、お帰り。エルザ」


けれど、セシルはのんびり返事をする。そこでセシルの傍に行くと、私は手を伸ばした。


「何?」


「新聞を貸して」


「どうして?今読んでいるのに」


「お医者様が安静にしていないと駄目だと仰っていたでしょう?お願いだから言う通りにして」


「‥‥分かったよ」


セシルは諦めたようにため息をつくと、新聞を渡してきた。


「とにかく、まだ今はお医者様のいうことを聞いて?早く治したいでしょう?」


「まぁ、確かに早くは治したいかな。そうじゃないと子供にも会えないし」


「子供……?」


何故だか嫌な予感がする。


「どうしたんだよ?俺たちにはルークと言う子供がいるじゃないか」


笑顔で答えるセシルとは裏腹に、私は自分の顔が青ざめていくのを自覚した――。



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