第152話 私への頼み
「コレット様?どうされたのですか?何故泣かれるのです?」
突然カフェテリアで涙を流すコレット様に私はどう対処すれば良いのか分からなかった。
「わ、私‥…」
コレット様が俯き、肩を振るわせて泣くので私は近くに寄ると声を掛けた。
「コレット様‥…」
その時‥‥。
「失礼致します」
ウェイターが2人分のアプリコットティーを運んでくるとテーブルの上に置いた。
「ありがとうございます」
コレット令嬢の代わりに返事をすると、ウェイターは「ごゆっくりどうぞ」と言って、去って行く。
「コレット様。アプリコットティーが届きました。まずはお茶を飲んで落ち着かれてみてはいかがですか?」
「そう…ですね…」
私の提案に頷くコレット令嬢。
改めて向かい合わせに座ると、2人で一緒に紅茶を飲んだ。
「‥‥温かくて……美味しいわ‥‥」
ポツリと呟くコレット令嬢に声を掛けた。
「どうですか?少しは‥‥落ち着かれましたか?」
「はい‥‥先ほどは取り乱して、泣いてしまったこと…お許し下さい」
コレット令嬢はハンカチで目元を押さえながら謝罪してきた。
「いいえ、どうかお気になさらないで下さい。それで‥‥どうされたのですか?」
「はい、セシル様の件でエルザ様にどうしてもお詫びしたかったからです」
「セシルの‥‥」
「はい、今回セシル様が馬車に轢かれて大怪我をしたのは全て私の責任です。セシル様と口論になってしまって、私……怒って帰ろうとしたのです。その時、暴走した馬車が私の方に向かってきました。それをセシル様が身を挺してかばってくださいました。その代わりに‥‥‥お、大怪我を……」
コレット令嬢の目に再び大粒の涙が浮かぶ。
「セシル様は、唯一残されたアンバー家の跡取りで大切なお方なのに私は大変な事をしてしまいました。もし、このまま目が覚めなかったら…私は何とお詫びをすれば良いのか……!」
青ざめた顔でガタガタと震えるコレット令嬢になんとか落ち着いてもらおうと声を掛けた。
「大丈夫です、コレット様。きっとセシルなら大丈夫です。意識はまだ戻ってはいませんが、時折うわ言を言っています。だから今に意識が戻るはずですから」
本当にそうなのか確信は持てなかったが、コレット令嬢を安心させる為だ。
「そのうわ言と言うのは……エルザ様のお名前を呼ばれているのですよね?」
「え…?」
まさか、コレット令嬢が知っていたなんて……。
「今回のことでセシル様が命に関わるかもしれない大怪我を負われてしまいました。もう私はセシル様と結婚する資格はありません。それに、ただでさえ私は嫌がられていましたから‥‥」
「コレット様……」
私はコレット令嬢に掛ける言葉が思いつかなかった。
「それでは……これからコレット様はどうされるのですか……?」
余計なことを尋ねているかもしれないと思われてしまうかもしれないが、私は今後のコレット令嬢のことが心配だった。
「セシル様との婚約は解消致します。その後のことは……セシル様の目が覚めてから考えたいと思います」
「そうですか……。余計なことをお尋ねして、申し訳ございませんでした」
「いいえ」
コレット令嬢は首を振ると、テーブルに乗せていた私の手を握りしめて来た。
「エルザ様。どうぞセシル様の事、よろしくお願い致します」
そしてコレット令嬢は私に頭を下げて来た――。