第144話 誰にも言わなかった話
結婚しても愛することは無い……。
同じだ。
私がフィリップと結婚した日に言われた言葉と……。
どうしてセシルも又、同じセリフを言うのだろう?
そのことを踏まえて考えて見れば、やはりフィリップとセシルは兄弟だけあって、よく似ているのかもしれない。
外見だけでなく、性格も――。
「あ、貴女には私の気持なんか分からないでしょうね?自分の好きな相手から…愛することは出来ない、なんて言われる気持ちなんて…」
グスグスと泣きながら訴えるコレット令嬢。
確かにそんな酷いことを言われたらショックだし、悲しくてたまらないだろう。
「……分かります。コレット様の気持ち」
泣いているコレット様に語りかけた。
「嘘よっ!いい加減なこと言わないでよっ!貴女はフィリップ様と愛し合って…相思相愛で結婚したのでしょう?!それなのに私は…一方的な方思いで…しかも相手から嫌われているが分かっていて、それでもセシル様のことが好きで…無理やり結婚するようなものなのだから!」
コレット令嬢は涙に濡れた瞳で私に泣きながら訴えてくる。
そこで私は自分の話をすることにした。
今まで誰にも話したことの無い、私とフィリップの話を‥‥。
「コレット様、私も同じなのです」
「え…?同じって…何が‥‥?」
「私も結婚式を挙げたその日にフィリップに言われたのです。本当は私とは結婚したくなかったっと。そして離婚届を手渡されました。これを預けておくから離婚する気になったら代わりに提出してくれと言われて。姉と結婚したかったのだとはっきり告げられました」
「そ、そんな‥‥嘘でしょう……?」
コレット令嬢は信じられないと言わんばかりに首を振った。
「いいえ、嘘ではありません。結局結婚したその日に私は姉の為に用意したバラ模様の部屋をあてがわれました。それはまるで、本当に私とは結婚したくなかったのだと思わせるのに十分でした」
「……」
いつしかコレット令嬢は泣き止み、真剣な表情で私の話を聞いていた。
「そしてその日から、フィリップに冷たくされる日々が続きました。食事時間以外は彼と顔を合わせることが無かったのです。その期間は一カ月以上続きました。だからコレット様の気持ち、私には分かります」
するとコレット令嬢は真剣な顔つきで質問してきた。
「そ、それでは‥‥どうやって正しい夫婦関係に戻れたの……?」
「私はフィリップのことを愛していたので、どんなに冷たくされても歩み寄ろうと努力しました。そして時々垣間見えるフィリップの隠れた優しさに気付き…彼の本心を知ることが出来たのです」
「フィリップ様は貴女を愛していたのに、どうしてそんな冷たい態度を取っていたの?」
「はい、それは彼が癌に侵され、余命幾場も無いことを知っていたからです。私が彼を嫌うようにわざと仕向け…私から離婚を言わせようとしていたのです。…私の為に…。自分が長く生きられないのをフィリップは知っていたからです」
その言葉でコレット令嬢の顔が真っ青になった。
「!そ、そうだったの‥‥?ご、ごめんなさい……私、そんなこと知らなくて貴女に酷いことを言ってしまったわ‥…。ほ、本当にごめんなさい…!」
そしてコレット令嬢は突然泣き崩れてしまった―――。




