表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/204

第11話 悲しい時間

「エルザ、どうしたんだい?少しも食が進んでいないようだけど?」


フィリップが料理を口に運びながら尋ねてきた。


「え、ええ。あまりお腹が空いていなくて…」


こんな状況で食欲など起こるはずは無かった。


「まさか…この家の食事が口に合わないのかな?」


フィリップは冷めた目で私を見た。


「そんな事無いわ。とても美味しいわよ。ただ、今夜は胸が一杯で…食欲が無いのよ。…折角用意して貰ったのに…申し訳ないわ」


「ふ〜ん…そうかい。ならこれからは君の食事は量を減らしたほうがいいかな?その方が食材の無駄にならないからね」


フィリップにはその気は無いのだろうが、彼の言葉の一つ一つが鋭いナイフのように私の心を抉っていく。だけど、冷静にならなければ…取り乱して泣き出すものなら、益々私は彼に嫌われてしまう。

私は何としても彼との離婚を回避しなくてはならないのだから…。


だから、私は泣きたい気持ちを必死に堪えて笑顔で言う。


「ええ、そうね。その方が食材が無駄にならないものね。フィリップの手を煩わせるわけにはいかないから、厨房の人達には私から説明しておくわ」


「そうかい、君の好きにすればいいよ」


そして全ての食事を終えたフィリップはペーパーで口元を拭くと言った。


「明日の朝食時間は午前7時に、この場所だよ。食欲がないなら無理に来なくても構わないからね」


「いいえ、大丈夫よ。必ず行くから」


恐らく私とフィリップが顔を合わす機会は食事の時だけになるのだろう。それならその貴重な時間を無駄にするわけにはいかない。

例え食欲が無いとしても、フィリップと過ごせる大切な時間なのだから…。


「…そうかい。それじゃ僕はもう部屋に戻るから。それじゃ、おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」


そしてフィリップは私の方を一度も振り返ること無く、ダイニングルームを出ていってしまった。


バタン…


ダイニングルームの扉は閉ざされ、私は1人その場に残されてしまった。


「…」


目の前のテーブルには殆ど手つかず状態の私の食事。すっかり冷めてしまっている。


「おやすみなさい…ね…」


ダイニングルームの部屋に掛けられた時計を見ると時刻はまだ20時だった。とてもではないけれども、こんな時間に寝るはずはない。

つまりフィリップの言った「おやすみなさい」と言う言葉は、もう明日の食事時間まで構わないでくれと言う意思の現れなのだろう。


「そんな事…わざわざ言わなくたっていいのに…」


フィリップが私の事を迷惑だと思っていることがはっきり分かったのに、私が彼の部屋を訪ねるとでも思っているのだろうか?第一、彼の部屋が何処にあるのかも分からないのに。


その時―


突然カチャリと扉が開かれ、先程給仕をしてくれたフットマンが部屋に現れた。


「あ…!も、申し訳ございません!奥さ…い、いえ。エルザ様。旦那様が部屋を出ていかれるお姿を拝見したので、てっきりご一緒に出ていかれたとばかり思っておりましたので…!」


彼は申し訳無さそうに頭を何度も下げた。


「いいのよ。気にしないで。私も、もう出るところだったから…」


そして席を立ち上がった。


「そうだったのですか…。ところでエルザ様」


「何?」


「お食事にほとんど手を付けておられませんが…もしかするとお口に合いませんでしたか?」


心配そうに彼は尋ねてきた。


「いいえ、違うわ。お食事はとても美味しかったけど…ただ、食欲が無くて。だから貴方から厨房の人達に伝えて下さる?明日の朝から食事の量を全て半分に減らして欲しいと」


「え…?本当に宜しいのですか…?」


「ええ、いいのよ。だって食材だって無駄ならないでしょう?お願いね」


「は、はい。かしこまりました」


私は彼の返事を聞くと、席を立ってダイニングルームを後にした―。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ