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第9話  自作ポエムを送るのはやめろ!!


「ゔー、ハンカヂ貸してぐれ」


「あ、起きた、私のでいい?」


「おゔ」


 とても令嬢らしかぬ顔になってしまったパールちゃんは、めんどくさそうに鼻を押さえた。

 その間私は、床に垂れた血をサッサと処理する。


「なかなか良いパンチ持ってんじゃねぇか」


「いえ、人をグーで殴ったのは二人目なんです」


 じゃあ何か、私はパンチの練習台だったって事か?


「そんでルビアちゃん、パールちゃんのことは許せそう?」


「ええ、これでおあいこです」


 良かった、これで殴り足りないとか言われたらどうしようかと一瞬本気で考えてた。

 しばらくして鼻血も止まり、ようやく落ち着いた私たち三人は、改めてテーブルに着く。


「そうだ、私お茶入れてきますね」


「いや大丈夫大丈夫、もうそういう段階じゃない」


「そうですか……」


 立ち上がりかけた腰を戻し、少しシュンとなるルビアちゃん。

 さっきの格ゲーキャラ並みの覇気はどこへ行ってしまったのやら。


「オレさ、多分あんたのこと誤解してた。

弱っちくておどおどして、何考えてるのかわかんなくてさ。

……そりゃ聞かなきゃわかんねぇよな」


「パールちゃん」


 友達の心境の変化に、聞いている私も少しウルッと来てしまう。

 

「ルビア、オレはもう二度とお前に手は出さない。

それは約束する」


 パールちゃんがはっきり言葉にするのを見て、ルビアちゃんも表情が明るくなる。

 しかしパールちゃんは、声のトーンを落としてつづけた。


「でもな、俺がどうこう言ったって問題は解決しねぇんだ。

マリン様っていう大本をなんとかしねぇとな」


 そう、結局はそこに行きついてしまう。

 パールちゃんという心強い味方が参入したものの、私たちはしょせん下っ端。

 権力という見上げんばかりの高い壁には、到底手が届かない。


「んー、どーしよ。

マリン様は絶対説得には応じないよね」


「無理だろうな。

オレと違って、明確にルビアと敵対してる。

話し合ってどうこうなる問題じゃねぇだろ」


 私たち二人がうんうん唸っていると、ルビアちゃんがおずおずと手を挙げる。


「あの~、私は王子様と結婚する気はあまりないんです。

それをマリンネスタさんに伝えられたらってずっと思ってて……」


「うえぇえ!? そうなのかっ! なんでだよ!」


 叫ぶ勢いで机をダンッと叩くパールちゃん。

 だが私は、まったく別のことで思案していた。


「第四章……、そこまで一気に飛ぶのはまずい」


 四章は最終章の足掛かりになる部分で、そこからマリンネスタ派閥とルビア派閥で全面的に争うことになる。

 その発端が今のセリフ。

 ルビアが王子と結婚する気がない、良いお友達でいましょうと、つまりフッてしまうのだ。

 塞ぎこんだ王子だったが、それをチャンスとみたマリンネスタが横から搔っ攫おうと強引な手を使うも、王子に悪い手口がバレてしまう。

 そして爵位を落とされたマリンネスタは報復として裏社会の手を借りて全面戦争に。

 つまりマリンネスタの耳に今の情報が入ると、だいぶ拗れてどえらい戦争が勃発する可能性がある。


「おいどうしたエメっち?

オレ達運がいいぜ、マリン様にこのことを伝えれば丸く収まるんじゃねぇか?」


「それはダメ!!」


 つい大きくなってしまった声に、二人はシンと静まり返る。


「どうしたんですかマリンネスタさん。

私が王子様と婚約しなければ、何か不都合が?」


「いや、不都合っていうか……そのぉ…」


 上手く言葉が出てこないというか、選べる語録が少なすぎる。

 私の思いのたけを口に出すために、どう言葉を繋げばいいっての!?

 異世界、小説、執筆者、生まれ変わり、何を口にしても冗談にしか聞こえない。

 こんな説明難しい事ってある?

 

「と、ともかく王子様も話に加えなきゃ、変な方向に進むと思うのよ!

マリン様もああ見えて変なところでやらかしたりするじゃん」


「じゃあどうやって王子と話すんだよ?

結婚は無理ですって王宮に出向くか?」


「ふぇっ!? それは……」


 そうか、この時点ではまだ王子様が学園に転入してくるって知らないのか!

 どうしよう、説明できないのに説明が必要なタイミングが多すぎるよぉ!


「それなら何とかなると思います」


 ルビアちゃんは思い出したように、部屋の机から小さな木箱を取り出した。

 私たちの前で蓋を開けると、中には溢れんばかりの便箋の山。


「これ、なんだよ?」


「王子様からのお手紙です。

王宮から送られてくるものを、処分するわけにもいかず……」


 何通か読んでみると、何とも背筋がくすぐったくなるような文章の数々。

 君のハートはバラの香りが~…とか。

 瞳の真珠に吸い込まれてうんたら~…とか。

 ……ポエムか?


「ひぃ~、見てる方が恥ずかしくなっちまうぜ」


「うーん、数年後枕に顔うずめて叫ぶ奴だわ、くわばらくわばら」


 ルビアちゃんはそのうちの一通を手に取ると、私たちに広げて見せてくれる。


「ここ見てください。

来月の初めに、王子様が私たちの学園へ来ると言ってます。

勿体ぶった言い方をしてますが、入学してくるんじゃないでしょうか?

私たちの学園、王都の国立学校からそんなに離れてないですし」


 王子様ナイスプレー。

 お礼と言っては何だけど、今の手紙の記憶は私の記憶から抹消しておくとしよう。


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