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第22話  いいえ、これはシチューです


「あー、それでその顔」


「殴られ過ぎて顔がパンパンに腫れてしまいましたの。

学園にも家にも行けず、合宿という名目で匿ってもらってる現状ですのよ」


 そう言うマリンネスタの顔面に、もはや面影はない。

 ルビアちゃんはいったいどんな殴り方をしたのか、デンプシーロール?


「んで? 今は何作ってんだ?」


 そういえばと思い、私も鼻を利かせてみた。

 するとふわりと香るクリームシチューのいい匂い。


「わぁ、ちゃんと練習してるんですね」


「当たり前ですわ。

本気でやらなければ殴られてやったかいが無いというもの」


「なんで上から目線なんすか?」


 とにかく、ルビアちゃんもマリンネスタも無事……とはちょっと違うけど。

 元気そうな顔を見てホッとした。

 緊張が解けて脱力した私のお腹は、いつもより1オクターブ高い腹の虫を奏でる。


「あー、そういえばお昼まだだった」


「では食べていきますこと?」


「ぜひ!」


 力強く返事する私の肩を、パールちゃんがそっと突いた。


「おいおい、大丈夫か?

お前マリン様料理の被害者第一号だろうが」


「へーきへーき、ルビアちゃんが付いてるんだよ。

監修付きで大それた失敗料理作る人なんかいないって」


 私はにこやかにルビアちゃんの顔を見やる。

 その顔がどこか引きつっているように見えたのは、私の気のせいだろうか。


「それではご賞味あそばせ!

マリンネスタ特製、スターゲイジーシチュー!」


 盛り付けられた円錐の塊に、四方八方からぶっ刺さった可哀そうな魚の死骸。


「ちがうじゃん……」


 スプーンじゃなくノミとトンカチを渡された時点で逃げるべきだった。

 ミルクの色素が綺麗に混ざり合った純白の結晶。

 それなのにしっかり焦げ焦げな魚たちが、余計に哀愁を漂わせていた。


「エメっち、どうする?」


「まぁ、ひとまず取り分けるか」


 まずは小皿に分けるため、トンカチを振り上げた。

 いやもうこの時点で、料理としてはトチ狂ってるわけだけど。


「よいしょ」


バキンッ!


 トンカチが折れました。

 別に焦げたわけでもないのに、鋼のような硬度を誇るシチューのなれの果て。


「食えるかぁ!!!」


 私は手にしたノミを床にたたきつけてから、テーブルに乗る何かをゴミ箱へとダンクシュートした。

 今この時ばかりは、食べ物を粗末にとか言われる筋合いはないと思う。


「そんな……一口くらい」


「また私の歯ァ欠けさす気ですかアンタ!?」


 作るもの作るもの全部が果てしなく硬くなる。

 もう鎧職人でも目指したらいいんじゃないだろうか。


「でも、エスメラルダちゃんの言う通りですよ。

全然説明通りにやってくれないし、秤は面倒くさいからって目分量だし。

挙句隠し味って言って、変な物入れだしちゃうし……」


「だって美味しくなると思ったんですもの」


 その変なものが何なのか、もういっそ知りたい。


「でもシチューで失敗とはなぁ。

あんなもんオレだって作れるぜ、単なるミルク煮だろ?」


「聞いてる限りじゃパールちゃんも危なそうだけどね」


 それよりも、これは大きな誤算である。

 まさかルビアちゃんのお料理技術でも修正が効かないレベルとは。


「エメっち、これ食事会に間に合うと思うか?」


「うーーん……」


 私たちの表情を見てようやく事態を飲み込めたのか。

 自分の作ったものについて、今頃焦りだすマリンネスタ。


「ちょ……それは困りますわ!

えっと、もう一回、もう一回お願いしますわ!」


「パールちゃん、私らも手伝うよ!」


「ったく、じゃあかき混ぜんのは任せろよ」


 こうして私たち4人、初めての共同作業が始まった。


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