第13話 パールちゃんぶっ飛ばす
保健室で横になり休むマリンネスタ。
その横で、先ほど私たちが話し合った作戦を掻い摘んで説明する。
「つまり、マリン様の活躍を見せつけて、ルビアから王子を奪い返す。
結構上手くいきそうじゃないですか?」
「あー、うん、そうですわね……」
食堂で口からもんじゃ焼きを生成しそうになったのが余程ショックだったのか、かつてないほどテンションが下がってらっしゃる。
「ほーらしっかりしてくださいよー。
皆が王子様の存在に慣れ始めたら、この作戦使えなくなっちゃうんですよー」
「うぅ……、もうやなんですの……」
毛布をぐいぐい引っ張っても、団子のように丸まって動かない。
こんちくしょう、そういうのはエスメラルダのキャラだろうが!
「おーいマリン様ー、起きろぉ!
腋とかくすぐるぞこのぉ!」
枕でお尻を叩いてももぞもぞ動くだけ。
メンタルやられすぎだろうが、このダメラスボス!
「んじゃよ、マリン様。
ルビアにダイアリー王子とられていいんだな?」
明らかに心を揺さぶる一言に、マリンネスタも苦々しく顔を上げる。
「そんな事は……」
「無いってか?
今まで散々ルビアを下に見てイビリ散らしてきたのに。
いざ王子が近くに来ると、そうやって丸まってんだ。
そりゃあ一目惚れとか関係なしに負けるわなぁ」
「言わせておけば!」
マリンネスタは毛布を私の顔へ投げつけると、激しく靴音を鳴らして立ち上がる。
「なんだやるか?
今なら両手使わなくても勝てそうだぜ?」
「やってみなさい」
激しい視線で火花を散らす二人に、私はただあわあわと口を開けることしかできない。
ただお互いに手が出るようなことは無かった。
「はぁ、……なっさけない。
自分が嫌になりますわ」
マリンネスタは深く、心底深く溜息を吐く。
肺の中身を全部吐いたかと思うと、窓際に行って新鮮な空気を口いっぱいに取り込んだ。
「……見ていなさいな」
そのつぶやきが風に乗り、多分私だけに聞こえてきた。
「パール!! わたくしの化粧道具を持って来なさい!
エスメラルダっ、しばらく保健室に人が入ってこないよう先生に取り計らいなさいな!」
「おっ、おう!」
「いえっさー、了解です!」
マリンネスタの眼が変わった。
そう感じ取った私たちは、全速力で支度を開始する。
「「準備整いました!」」
「よぉーし、では部屋の外で待っていなさい」
元気いっぱいのマリンネスタに部屋から閉め出されると、私たちはお互いの顔を見合わせて笑う。
「……ぶはっ…だははははっ、やっぱあの人可愛いわ!」
「同感、恋する乙女だもんね~」
二人でわちゃわちゃと騒いでいると、扉の向こうから「やかましいですわよ」と声がかかる。
それに「はーい」と二人で雑に答え、また笑う。
「ねぇねぇパールちゃん、私思うんだ」
「ああ、多分おんなじこと考えてる」
私とパールちゃんとルビアちゃんとマリン様。
みんなが笑い合って、楽しく過ごせる日がくればいいのに。
「何とかしよう、絶対に」
「おう、お前にだけはカッコつけさせねぇからな」
「んふふっ、なーにそれ?」
そんなことを話していると、ドアの向こうでガタガタと物音がし始める。
支度は済んだのかと声をかけると、もう少し待てとの返し。
そのまま一分も経たぬうちにドアは開いた。
「待たせましたわね!」
目立っていたクマはファンデとコンシーラーで綺麗に隠し、元の力強い瞳に戻る。
「ようやく復活かよ大将さん」
「ふふん、今だったらさっきの言葉に殴り返せそうですわね」
「おぅ? んじゃもう一回言ってみよっかなぁ?」
「はいストップストーップ!
そういう悪ノリは私が付いていけないから却下!」
紆余曲折あったが準備は万端。
ただこっからどうすんのかは、私聞かされてない。
「んでパールちゃん、王子に会うって言っても作戦はあるのよね?」
「もちだぜ!
作戦AからFまであるけどどれがいい?
ちなみにCだけはお勧めしないぜ」
「ではCで行こうかしら」
「なんでそういうとこノリいいんですかマリン様!?」
私は念のためと思いつつ、作戦Cのプランについて尋ねてみる。
「作戦Cは至極単純、催涙ガスを教室に充満させて王子だけを掻っ攫う……」
「はい却下―」
聞いた私がバカだったと、結構真面目に頭を抱えた。
この感じだと、本命の作戦が二つもあれば上出来か。
「仕方ねーなー、ならとっておきの作戦Dで行くぜ」
「ちなみにどんな奴?」
聞いておかないとホントに何するかわかんないのよこの子。
そしてパールちゃんは悪い笑みを口いっぱいに浮かべてこっち見る。
「作戦D……それはな」
「そ……それは?」
作戦を聞いた私は、後悔した。
そしてこれを実行に移そうとしたパールを、絶対ぶん殴ってやると心に誓う。
「ぬがぁあああぁぁああっ!
ぱぁぁーーーるぢゃんぶっどぶぁぁーーずぅっ!!!」
なぜか屋上からバンジージャンプをさせられながら、私の絶叫と憎悪がこだまするのだった。




