第12話 ビバッ、結婚!
「作戦会議ですわ二人とも!!」
髪飾りが欠け、崩れた髪型のマリンネスタが息を荒げ駆け込んできた。
時間はお昼時。
ちょうど今からルビアちゃんに声をかけようと思っていたところだ。
「んあ……えっと、どしたんマリン様?」
「どうしたもこうしたもありませんわ!」
いつにも増してご立腹な様子の彼女は、私とパールちゃんを引きずって食堂へ。
適当な食堂のランチを注文し、ひとまず食べ始めようとしたとき、マリンネスタがハンカチを嚙み千切りそうな顔で話し始めた。
「わたくし……ぐやじいでずのぉ…」
「はぁ……王子様の件ですかね?」
「そう! それですわ!」
「んふゔっ!」
力一杯指さされた私は、鼻から春雨スープが出そうになる。
「わたくしが折角徹夜して……ああいえ。
ともかく、久々に王子に会えるチャンスですのよ!
なのに、なのに皆が王子王子って道を阻んで、見てくださいなこの髪に服!!」
格好もそうだが顔もひどい。
徹夜の疲れがダイレクトに響いてるのか、クマと頬のこけが目立つしそもそも化粧が雑。
肩に力が入って失敗したパターンでしょこれ。
「マリン様、出直した方がいいですよ。
今のまま行っても印象悪くなるだけでしょ。
幸い王子は明日以降もいるんですし」
「そうですけれどぉ……」
こんなしおらしくなってるマリンネスタが見られるとは。
やっぱ王子様ってすげぇ。
そんなことをぼんやり考えながらポテトサラダとアスパラベーコンをまとめて口に運ぶ。
するとパールちゃんが肘で私を軽く小突く。
「なぁ……」
「ん?」
やけ食いで大盛りのチキンステーキを頬張るマリンネスタをよそに、パールちゃんは耳打ちで話しかけてきた。
「ちょいとツラ貸せ」
「相変わらず言い方が最悪」
でも何か考えがあるらしい。
私は手にしたフォークを置き、一心不乱に肉をむさぼるマリンネスタを一瞥して席を立つ。
「ちょっとお花摘みに行ってきまーす」
「オレもウ〇コ」
私のオブラート包みをぶっ壊してくるパールちゃんと共にトイレへ向かう。
しかし食堂の利用者が多いこの時間帯は、トイレにだって引っ切り無しに人が出入りする。
「裏行くぞ」
「うん」
そうして食堂裏へ来た私たちは、周囲を気にしつつ影にしゃがみ込む。
「それで?
こんな場所へ連れて来たんなら、何か考えがあるんでしょ?」
「おう、つまりルビアを助けるっつー一番手っ取り早い方法は、マリン様と王子がくっつけばいいわけだ。
都合よくルビアの奴も王子をまだ気に入ってないらしいからな」
まぁ確かに。
私の思い描くハッピーエンドにはならないけど、割と現実的な方法だとは思う。
「でもどうすんのさ?
王子は相当ルビアちゃんラブよ、あの手紙見たでしょ?」
思い返すだけでゾクゾクする。
ああいや、私はあの手紙は忘れると決めたんだった。
「王子の惚れっぷりはよくわかってる。
でもな、今の環境は逆にチャンスって考えらんねぇか?」
「どゆこと?」
目を点にして首をかしげる私に、パールちゃんは自信たっぷりに腕を組む。
「簡単な事さ、今王子は揉みくちゃにされ、愛するルビアに会えずじまい。
悔しくてたまらない王子、ああ、誰か助けてくんねぇかな?
……そこへだ! 颯爽と現れて王子を人波から救い出す令嬢が出現したら、どうなるよ!?」
「ほう!」
私は興奮しながら大きく頷く。
「困った王子を救うマリンネスタの好感度爆上がり間違いなし!
その先に待ち受けるは……、ウーーービバッ結婚!!」
天を指さすパールちゃんに後光が刺す。
私の頭の中でリンゴ―ンと鐘が鳴り、飛び立つ白い鳩が見える見える。
「どうだよこの作戦?」
「久しぶりにパールちゃんが頭いいと思った!」
というわけで早速マリンネスタの元へと戻る私達。
席に帰ると、マインネスタは神妙な顔でチキンステーキを睨みつけていた。
「どうしたんですかマリン様。
何か生みそうですよ?」
テーブルには皿が四枚。
やけ食いした結果、食いきれずに限界を迎えたようだ。
「いや、その、別に大丈夫ですけれど」
「ダメな顔してるっスよ」
何をするでもなく、一人でに自滅するマリンネスタ。
敵にするとちゃんとラスボスしてるくせに、手伝おうとすればポンコツになるとは、何だこの人?
仕方なくパールちゃんはお水を持ってきて背中をさすり、私は残っていた料理を全部平らげた。




