第11話 押さないでくださいお客様!
三連休が終わって、マリンネスタ引き留め作戦を決行する一日目。
「皆さん初めまして、ダイアリー・プリムアント四世です。
僕は一国の王子ではなく、一人の学生として勉学に励みたいと考えております。
皆さんも、どうか仲良くしてくれると嬉しいです!」
一週間どころか一日で来た。
王子はどうやら、私の想像をはるかに超えてアホだったらしい。
「きゃーーっ、嘘っ、本物!!?」
「すっごいっ、マジ王子、マジ王子だ!」
「超イケメン、えっ、私もう勉強できないんだけど!」
女子組からの黄色い歓声が止まらない。
とはいえ私だってちょっとドキドキする。
白と銀の中間のような透き通る髪は肩より少し下まで延び、髪色に近い瞳はそれこそ宝石のようだ。
圧巻のイケメンオーラは、目が合いそうになるだけで今日の化粧のノリが気になってしまう。
「ハリウッド俳優に会ったりするとこんな感じなんかな~」
初見ルビアちゃんの衝撃には劣るものの、王子の美形っぷりも凄まじい。
自分で執筆したキャラだからそこそこ達観してるものの、私の中のエスメラルダ部分が興奮で太鼓叩いて阿波踊りの曲に合わせてブレイクダンスしてる。
「なぁなぁエメっち。
なんで王子の奴、ルビアの教室に編入しなかったんだろうな」
「先生が言ってたよ、席数の関係でここしかなかったって」
本当はマリンネスタが私たちのいる教室になるよう裏工作してるんだけど。
よくもまぁ王子の爆速編入手続きに間に合ったもんだよ。
それに王子がルビアちゃんと同じ教室になられたら、それこそマリンネスタがどう動くかわからないし。
「んじゃ、次の授業が終わったら王子にアタックするとしようぜ」
「りょーかい」
そんな調子で迎えた次の休み時間。
私たちは王子の影響力を舐めていた。
「……教室から」
「……出らんねぇ」
王子に会おうとする人、人、そして人。
激しく押し寄せる人間の濁流は、何も女性だけにとどまらない。
コネを作ろうとする貴族たちや、顔を覚えてもらおうと走る教師陣。
有名人と仲良くなりたい陽キャに、どこからともなく現れたホモのおっさん。
「まさかこんなに人が集まって来るとは、オレも誤算だったぜ」
「ちょっと待って変な人いる」
王子様もルビアちゃんに会いたかっただろうに、結局この時間は不審者が一人逮捕されただけで終わってしまう。
「じゃあ次だ次! 今度こそ王子をふん捕まえて……」
「なんで起こそうとする行動が全部物騒なのさ!
そもそも無理だって、今の王子には近づきようがないよ」
こういう時は視点を変える。
王子に手紙を送った時と同じだ。
「まずは王子じゃなくてルビアちゃんに会おう。
今はマリン様も王子にしか眼が行ってないでしょ」
「確かにな。 よし、授業が終わった瞬間教室から飛び出すぞ」
「がってんだい!」
そうして緊張張り詰める二時間目が終了。
30分間の休憩時間が訪れる。
「だぁりゃああ! 脱出!!」
「ぬわあああぁぁぁ!!」
終了の鐘と同時に室外へダイブする。
瞬間虫が湧くかのようにアホみたいな数の人影が、ブワァッと出入り口を覆い隠す。
「ふぅ、セーフだぜ」
「なにこれパニックホラー?」
そのわちゃわちゃ群がる人の中にマリンネスタを見かけたが、なんだかすごい顔をしていたので見なかったことにした。
速足でその場を離れ、ルビアちゃんのいる教室へ。
「おーい、ルビアちゃん」
「あっ、エスメラルダさん、それにパールさんも」
「いやすげぇな、誰もいねぇじゃん」
次は移動教室でもないはずなのに、教室にはルビアちゃん一人。
きっと皆、この長めの休憩時間を狙って王子の元へ行ったのだろう。
「ま、ちょうどいいや、話しやすいしな」
そう言ってパールちゃんは人の机にドカッと腰を下ろす。
「んでどうする?
あの人気っぷりは想像以上で、オレたちが近づけるとは思えねぇ」
「あ、じゃあ私なら近づけるんじゃないかなぁ~と……」
「「それはダメ!」」
私とパールちゃんは、同時にルビアちゃんの提案を却下する。
大勢の中で王子様が熱愛発言でもした日にゃあ、マリンネスタに加わり第二第三の派閥が生まれてしまう。
「私たちは正直侮ってた、こんなんじゃいつまでたっても王子に接触できないよ」
「でも、何か策はあるはずです!」
ルビアちゃんの励ましに、私は頭をひねる。
だがそもそも頭脳派じゃない私にそこまでの発想力があるはずもなく。
「やっべ、人が戻ってきたぜ」
廊下からは人の声が増え始めた。
これ以上の長居はリスクがありそうだ。
「ごめん、私たちはいったん教室へ帰るよ」
「はい、またあとで」
可愛らしく手を振るルビアちゃんに、私もちょっとニヤけながら振り返す。
そうして次の授業開始の鐘が鳴る時にようやく人の群れは引いて行った。
「なんで席着くだけで疲れなきゃなんねんだ」
「ほんとそれ」
私とパールちゃんは机に突っ伏し、無駄に消耗した体力を回復するのだった。




