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第10話  ハートを入れてこそのラブレター


「ってなると、王子が来るまでの一か月。

マリン様を止めりゃあいいんだな?」


「あー、まぁそうなるよね」


 私的にはほぼふりだしに戻った感じ。

 そこでけっ躓いてるからどうにかしたいのよね。


「そーねぇ、マリンネスタ様の足を折るとかどう?」


「なんでそんな血の気が多いのルビアちゃん?」


 可愛い顔して、内に溜め込んでた憎悪がヤバい。

 

「うーん、オレらがやる分には、この際ワンチャンありか?」


「ねぇよ」


 案が思いつかな過ぎて迷走してるパールちゃん。

 お願いだからもうひと踏ん張り頑張って!

 あなたが何もできなきゃ、私随分と後戻りすることになるんだけど!


「忘れてるかもしれないけどっ、マリン様って辺境伯令嬢よ!?

こっちの身の安全とか考えても、傷つける系の話は断固反対!」


「いや冗談だって、オレだってマリン様をケガさせたくねぇよ。

でもさ、だからと言って止まれって言って止まる人でもねぇじゃん?」


「そりゃそうだけどさぁ」


「えっと、腕なら……」


「ルビアちゃん、そろそろ怒るぞ?」


 いくら考えても漫才が進行するばかりで、一向に打開案が出てこない。

 パールちゃんが毎日稽古に誘うデスマーチ案とか。

 私が毎日仮想恋愛物語で引き留める頭お花畑案とか。

 いっそ学校を爆破してすべてを無に帰す、魔王爆誕案とか。

 そろそろマリンネスタ骨折案がマシになってきた。


「うぉ……、オレ頭痛くなってきた」


「私も眠くなってきました」


 とか言ってすでに枕を準備し始めるルビアちゃん。

 ここで寝る気ですか?


「やっぱマリン様を止めるなんて無理なのかなぁ」


 まだ戦ってもいないのに、敗色の色が私たちの中で充満する。

 何をしても無駄、誰も口には出さないが、皆が同じ言葉を喉の奥に詰まらせていた。


「マリンネスタ様は……どうあっても」


「んー、無理だよなぁ」


 そう、マリンネスタは無理なのだ。

 …………ん?


「マリンネスタは無理?」


 改めて口にした言葉。

 二人は何も反応を示さないが、私の頭には今確かに電流が走った!


「そうだ、……そうだよ!!

マリンネスタが無理ならば!!」


 私は勢いよく立ち上がり、拳を天に突き上げる!


「王子様の方をどうにかすればいいんだ!」


 完全に視界が狭まっていた。

 そもそも王子様が一か月後に編入って話なのだから、こんな困ってんだ。

 ならばその一か月って期間をメチャクチャ短縮すればいい。


「そっか、エメっちナイスだぜ!」


「すごいです、完全に盲点でした」


 みんなでキャイキャイと喜んでいるが、冷静になると一国の王子より動かしづらいマリンネスタってすげぇなって。


「よし、次は方法だな、何か案はあるか?」


「そりゃもうルビアちゃんの熱烈ラブレター一択っしょ!


「らっ、ラブレターですか!?」


 顔を赤らめてもじもじするルビアちゃんだが、大丈夫。

 相手は熱烈ポエム送って来てんだから。


「おいおいラブレターかよ、ドキドキしちゃうな」


「なんでパールちゃんがどきどきしてんのさ?

あっ、ルビアちゃんハート入れて、赤い奴!

ラブレターなんてハート入れてなんぼだから!」


 もはや気分はパジャマパーティー。

 せっかくだから皆で文面を考えることに。


「オレはやっぱり、ストレートにあなたが好きですって行こうぜ!」


「告白じゃないんだっての!

早めに学園へ呼べればいいんだから」


「じゃあその、うーんと……”あなたが恋しいです”とか」


「「完璧!!」」


 みんなで案を出し合うはずが、流れ変わって私とパールちゃんが採点係に。

 一文一文の採点でグッドが出たら書き連ねていく。

 乙女チックで可愛らしく、ところどころお茶目も出つつのパーフェクトな文章。

 

「でき……ました!」


 ルビアちゃんが羽ペンを置く。

 息を整え、三人で一行目から読み返してみる。




『お久しぶりです、お元気ですか?

このところ暖かい日が続きますが、私は少し肌寒さも感じてしまいます。

何故でしょうか? そう思ったとき、ダイヤリー王子、隣にあなたがいないことに気づいてしまったのです。

私はあなたが恋しい、今は少しそう思っています。

もしよろしければ、学園に来るのを早めることはできませんか?

私の予定が空くのが来週からですので、たくさん学園を案内できると思います。

どうか喜ばしい返事が返ってきますことを夢見て、学園で待っております。

それではまた。

 ルビア・ローズナー』




「完璧じゃね?」

「オレって天才だな」

「可愛いお手紙が書けましたね」


 私たち三人は会心の出来にハイタッチを交わす。

 

「よぉーし、これなら王子が来週には来てくれるはず!」

「んじゃ一週間もたせりゃいい訳だな、楽勝だぜ」

「つまり、パールさんが稽古に誘い……」

「私がほんわかな話でお茶に誘い……」

「学校を爆破し!」

「マリンネスタさんの骨を折り!」

「王子を迎え入れれば、完璧だぜ!!」

「わぁーーい!」


 完璧じゃねぇよ。


 その後、ハートの装飾にハートの蝋印を押して準備完了。

 街で一番早い便で配達を依頼したので、明日の朝にはお城に届くだろう。

 あとは祈るだけだ。


「どうか、王子が単純でありますように」


 無礼極まりない祈りと共に、私たちは解散となった。

 真っ暗な夜の帰り道、迎えの馬車を拒否して歩く夜道は、見とれる程に星がきれいだった。


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