3.キャンプ部ってビリーブートザキャンプするんじゃないからね①
オレがサッカー部へ入部届を出したその日の放課後、オレと求は職員室へと出向いた。
「うん、合格〜。新加入第二号ね」
求は親の仕事の都合で幼い頃から引越しを繰り返していた。なかにはイギリス暮らしもしていたそうだ。これにより昨年何気なしに受けたTOEICで950点を叩き出したようだ。マジイケメンだな。
「とりあえず部活存続の最低ラインには到達したけど、二人とも兼部なだけに心許ないわ。まだ部員が欲しいんだけど他に知り合いはいない?」
欲深いな、マーガレット先生。そりゃオレたち二人がいれば、その誘いでまだ何人か入部が見込めると先生が目論むのはわかる。が、入部条件が厳しいのは変わらないだろうから満たす生徒を探すのにも一苦労だろう。
そう考えていたオレであったが、その心配は杞憂に終わった。オレと求の他に1年生二人プラス一人(仮)の入部が決まる。
まずキャンプ部に入部することを幼馴染みの奈々に話したところ興味をもち、マーガレット先生とのサシディベートに挑戦したところ、見事合格。奈々も海外居住経験者で英語も習得していた。ちなみに彼女も女子サッカー部との兼部である。
ホント求といい奈々もイケメンかよ
オレたちの入部を知った伊藤も果敢に、というか無謀に挑戦したが合格出来ず。ただ彼の迸る熱意に押されたマーガレット先生はTOEIC試験までの間仮入部を認めた。仮入部は認められたが次回でいきなり900点は無理だろうな。
そして、もう一人の入部者は同じクラスの睦月六花。中の上、もしくは上の下といったところか。先日サッカー部のマネージャーにもなっている彼女。会話は挨拶程度しか無かったが、彼女もまたキャンプ部に興味を持ったらしく、TOEIC900点以上ということで入部を認められた。聞いたところによると数年前までアメリカにいた帰国子女らしい。ホントこの学校どうなってるの?完全体・希少生物保安所ですか?
結局1年生メンバーは全員兼部となり本業の片手間にキャンプ部の活動に参加する。ちなみに同じ中学でサッカー部に所属していた伊藤はサッカー部に誘ったが断られ、「プロレス同好会」なるものに入部した。
とある週末の日曜日、サッカー部の練習が午前で終わることもあり、午後から都内近郊のキャンプ施設へ向かうこととなった。そう、今回がオレたち新入部員にとって最初のキャンプ部としての活動であり、「新入部員歓迎会」という名目の活動内容である。
「キャンプなんて久しぶり〜。ねぇ、何処に行くかわかる?」
キャンプが楽しみな奈々はサッカー部の活動後だというのにテンション高く、オレや求、睦月に話しかける。
「わからないなー。明日は平日だから、確か都内の近場のキャンプ場らしいけど。エイトわかる?」
「いや、何も聞いてないな。先輩にも一度会ったから聞いてみたけど教えてくれなかったし」
確か先々週、オレのクラスに副部長の四谷卯月さんがオレの週末の予定を聞きに来た。
第一印象は明るく愛想の良い人であった。中の上の暫定BG(Bランクガール)。部長の如月さんとは未だに面識が無い。知っているのは常に学年1位ということ。接しやすい人だといいのだが。目の前の睦月六花みたいに何考えてるか読めない人でなければいいな。
睦月六花。綺麗な見た目でクールビューティな感じの女子。うん?なんか同じこと言ってるな。
何回か部活で話しているがポーカーフェイスであまり表情を表に出さない。
同じクラスでもあるし話しかけようとすると、
「睦月さん、これからよろしくね。サッカー部のマネージャーも大変だろうけどサッカー好き同士色々話そうね!」
オレより先に話しかけたのは奈々。女子同士の方が話しやすいと思ったのだろう。それにしてもさすがの笑顔だ。天然寄りであるが気配りもできる、最高評価のSG(Sランクガール)。
「こちらこそよろしく、七海さん。でも実は私、あまりサッカー詳しくないんだ・・・・・・でもこれから勉強してみんなの話についていけるようにするから。」
話が止まるかと思いきや流れを断ち切らない、ありきたりな返答。まあどうせサッカーやってる男子が好きなんだろう。何かに一生懸命な男子を、御奉仕の気持ちでマネージャーをしているのだろう。
「そっか。サッカーのことなら私だったり求やエイトに聞いてね。最新の戦術だったりプロ選手に関してはホントバカみたいに詳しいから」
奈々、そこは女子同士の方が、この選手かっこいいとかで盛り上がるのでは?あと、バカは余計だな。でも相変わらずのエンジェルスマイルだから許す。
「そうだね。わからないことがあったら何でも聞いて」
オレはとりあえず笑顔で睦月に話しかける。あれ?今日、はじめて話しかけたな。
「うん。じゃあ鎌田君とは同じクラスだし色々聞くね」
ちょっと予想外の返答。まさかオレを指名してくるとは。余計な邪推は止めておこう。
「でもなんでマネージャーになったの?女子サッカー部もあるのに?」
奈々、そこ聞いちゃう?みんな君みたいにサッカー好きでは無いのだよ。
ただただ純粋に質問する奈々。その刹那、睦月はこう答えた。
「わたし、運動得意じゃないの。だったら、マネージャーやってみようかなって。それに頑張ってる男子を応援したい気持ちもあって。特にひたすら走り回っているサッカー部の子とか」
想定内、というか睦月の表情からみても正直そうな理由で逆に意外であったが、まあマネージャーやる女子なんてうわべでは大方、睦月のような理由がほとんどだろう。内心はどうせ「あのカッコイイ人、気になる〜」みたいな下心を持っているだろう。
それでも睦月は、ポーカーフェイスであり今のところ意思というか性格を表に出していない感じがするため、本心は全く伺えないのだが。まあ、オレには言われたくないか。
「僕たちとしてはマネージャーがいてくれると助かるからありがたいよ。なあ、エイト」
「そうだな。中学ではマネージャーなんて制度、無かったから助かるよ」
「それなら良かった。二人ともこれからよろしくお願いします。」
睦月は優しい笑顔で話してくれた。徐々にでも睦月と仲良くなれそうな気はした。嫌われるのだけはごめんだ。何となく根に持ちそうだしな、睦月。
果たして、「よろしく」と挨拶したオレは良い印象を持たれているだろうか。
駐車場で英語教師マーガレットを待っていると、そこへキャンピングカーが登場する。運転席のドアから出てきたのは眼鏡をかけたミス・マーガレットであった。
「お待たせー。ちょっと張り切って大きいの借りちゃったから恐る恐る来ちゃった」
【おいおい凄いキャンピングカーだな・・・・・・】
予想していたよりも大きなキャンピングカーに怯みつつも、予想外だったのはそれを運転してきた彼女のテンション。ジキル&ハイドも顔負けの豹変ぶりである。普段オレと話す時にも、ちょっとした変貌はあったがそれの数倍はテンションが高い。薬キメちゃってるんじゃないかと疑いたくなる。てかあの眼鏡が変身スイッチか?
「今日用意したキャンピングカーは、NUTS社の~」
キャンピングカーの話を意気揚々とするマーガレット先生に皆思考停止に陥っていたが、
「先生、早く出発しないと先輩方を待たせちゃいますよ。」
そう言ってオレが話を切り出すと、彼女はハッとした顔をした。
「そ、そうね。じゃあ続きは運転中にでもするね!」
マジかよ、と思いつつも出発することに安心したオレたち一年生は、そそくさとキャンピングカーに乗り込む。
意外にも助手席に進んで乗り込んだ睦月。オレたちと話すのが嫌になったのかと思ったが、マーガレット先生と話すことが楽しそうな様子だったのでその邪推は無かったことにする。
それに誰も助手席に行かなかったら絶対にオレが指名されていただろうし助かった。マーガレット先生にとってNo.1ホストらしいよオレ。